第202話:ボルフェリオ火山①

 翌朝、カナタたちは早速ボルフェリオ火山へ向かうことになった。

 最後の最後までレフィは心配してくれていたが、カナタたちにも譲れないものがある。


「すまんな、ランブドリア侯爵」

「いえ……その、本当にお気をつけくださいませ。殿下の命は、我ら貴族領民の命よりも重いのですから」

「何を言っているのやら。そんなわけがないだろう」

「殿下!」

「では、行ってくるぞ。守りの方は任せたからな」

「……はっ! レフィ・ランブドリア、命に代えてもラズガンダを守り抜きましょう!」


 こうして領都ラズガンダを出発したカナタたちは、今まで遭遇したことのなかった魔獣との戦闘を繰り返しながら突き進み――予定していたよりも一日遅れでボルフェリオ火山に到着した。


「まさか、三日も掛かろうとはな」

「本来であれば五日は掛かる道のりを二日で行こうとしたのがおかしいのですよ、殿下」

「強行軍にも程があるでしょうよ。カナタ君たちを見てごらんよ」


 リッコにそう言われたライルグッドだったが、彼はカナタたちの方へ視線を向けようとはしない。

 何故なら、カナタとリタとロタンの表情はまさしく死にそうなくらいに疲れ切っていたからだ。


「……はぁ……はぁ……あれ? ここは……どこですか?」

「……ふぅ……ふぅ……よ、ようやく、着いたっすね? 着いたんすよね?」

「…………あぁ~…………あれ~? 死んだお爺ちゃんが見えるわ~」

「ちょっと、ロタンさん! あなたはまだ生きてますからね!」

「はっ! ……あ、あれ? なんだか、無意識に足を進めていたような気が?」


 レフィには心配ないと口にしていたライルグッドだが、実際はラズガンダがどれだけ持ちこたえることができるのか、それが心配でならなかった。

 だからこそ強行軍を覚悟した最速の道程を組んだのだが、一日遅れてしまった。

 カナタたちもそんなライルグッドの想いを理解しているので文句は出ないのだが、疲れが顔を覗かせてしまうのは仕方がないことだろう。

 それほどに、過酷な道程だったのだから。


「ねえ、カナタ君。魔法鞄の中身、どうなっているのかな?」

「鞄の中身? ……さあ? とりあえず、一〇〇匹を超えたあたりから数えるのを止めたけど? まあ、二日目の途中でそこを超えたから、もしかしたら二〇〇匹は超えているかもな」

「……こんな数の魔獣、どこで換金したらいいのよ?」

「安心しろ。全て城で買い取ってやるからな」

「言ったわね! 絶対だからね!」


 さすがは冒険者というべきか、リッコは王命を受けている状況でもしっかりと魔獣素材の換金について考えていたようだ。

 そこへライルグッドが買い取ると口にしたことで、言質を取れたとガッツポーズを作っていた。


「殿下、私が言うのもなんですが、結構な金額が必要になるかと思いますよ?」

「わ、私もそう思うっす」

「はぁ……確かに、その通りですね。ひぃ……強くなった魔獣の素材ですから、ふぅ……ライル様の予想を軽く超える金額になるかと……ふぅぅ~」


 アルフォンスとリタが順番に不安を口にすると、不安を裏付けるようにロタンが理由を説明していく。


「……ま、まあ、最終的には父上か、財務大臣に確認を取ってから――」

「言質は取ったからね! 絶対に買い取ってもらうからね、ライル様!」

「うぐっ! ……わ、わかった! 俺がどうにかしてやろう!」

「絶対ですからね! ぜええええったい!」

「くっ! まさか、リッコがここまで金の亡者だったとはな!」

「冒険者なんだから当然でしょうが! タダ働きだけは絶対にしないのよー!」


 口では勝てないと悟ったライルグッドは、最終的には頭を抱えて悔しがっていた。


「……はぁ。殿下もリッコ様も、遊んでいる暇はありませんよ。私たちは今から――灼熱のボルフェリオ火山へ入ることになるのですからね」


 話を進めるためにアルフォンスがそう口にすると、先ほどまでの弛緩した空気が一瞬にして張りつめる。

 勇者の剣を作るための素材獲得が本来の目的ではあるが、今はそれだけが目的ではない。

 ランブドリア領の運命を握っているといっても過言ではないのだ。


「私が氷魔法で周囲の熱波から皆様を守りますが、完全ではないでしょう。魔獣も襲ってくると思われます。フェルトレントの時のような不覚だけは取らないようにいたしましょう」

「わかっている。カナタたちは絶対にやらせはしない」

「守ってあげるからね、カナタ君!」

「はは。女性に守ってあげるって言われるのはどうもむず痒いが、よろしく頼むよ」


 カナタがそう口にすると、ロタンは大きく頷き、リタは杖をギュッと握りしめて今度こそ自分も役に立つぞと気合いを入れる。


「カナタ。何かあった時は、賢者の石で頼んだぞ」

「わかりました、ライル様」


 そしてカナタもリタと同様に、自分も役に立つのだと密かに気持ちを引き締めていたのだった。

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