第200話:レフィ・ランブドリア
「久しいな、レフィ・ランブドリア侯爵」
ライルグッドとレフィが挨拶を交わしたことで、兵士も本物のライルグッド殿下であると理解し顔を青ざめさせてしまう。
「気にするな。お主らも民を守るために必死だったのだろう?」
「か、寛大なお心、感謝いたします!」
最敬礼を取った兵士に笑みを返すと、ライルグッドは再びレフィへ向き直る。
「簡単な話は道中の都市で聞かせてもらったが、詳しく聞かせてもらってもいいか?」
「もちろんでございます、殿下。それと……フェルトレントの討伐、ありがとうございます」
ライルグッドの宣言を途中から聞いていたレフィは、その場でフェルトレント討伐のお礼を口にしてから頭を下げた。
「この地に用事があったのでな。魔獣の騒動が解決してくれなければそれも難しそうだったから、これはそのついでだ」
「ははは、ついででSランク魔獣を討伐してくれる者など、そうそうおりませんがね。おっと、立ち話もなんですね、私の屋敷へ参りましょう」
軽く笑みを浮かべたレフィがそう口にして歩き出すと、カナタたちもその背に続いた。
レフィが先導しているということもあり、ラグザリアに入るとすぐに民からの視線が集まってくる。
大勢からの注目に慣れていないカナタやリタやロタンは自然と背筋が伸びてしまっているが、残りの面々は普段と変わらない表情で歩いていく。
そして辿り着いたレフィの屋敷は、カナタが予想していたよりもこじんまりとしたものだった。
「……ここが、侯爵様のお屋敷ですか?」
「ふふふ、驚いたかい?」
「あっ! し、失礼いたしました!」
自分が失礼な物言いをしていたことに気づいたカナタはすぐに謝罪を口にしたが、レフィは特に気にすることなく微笑んでいた。
「気にする必要はないわ。最初にこの屋敷を見た人は、誰もが同じ反応をしますからね」
「やはりもっと威厳のある屋敷を建てた方がいいんじゃないのか?」
「そこに関してはおいおい考えますよ。ですがまずは魔獣の問題からです」
「確かにそうだな」
「では、中へどうぞ」
こうしてカナタたちは、平民の家だと言われても誰も疑わないであろう、平屋の屋敷へ入っていった。
屋敷の中も屋敷の外観から想像できるもので、豪華絢爛ということは一切なく、むしろ質素な生活をしているだろうという生活感が滲み出ている。
貧乏貴族と自らを揶揄していたリッコの父親であり、ワーグスタッド騎士爵でもあるスレイグの屋敷でも、ここよりかは多少見栄を張るための装飾品は飾られていたとカナタは記憶していた。
「確か、ランブドリア侯爵領では税金も安く、領民が非常に豊かで生活水準も高いと聞いたことがあります」
「そうなんですか、ロタンさん?」
「はい。国から贈られる毎年の領地運営資金も、ほとんどを領民へ還元していると聞いたことがあります」
「だから本人は質素な生活を送っているんですね」
言葉にするのは簡単だが、実際に実行するとなればなかなか難しい。
人という生き物は欲の塊でできているようなものだ。
目の前に自由にできるお金があれば、それを自分のために使いたくなるのは仕方がないことだろう。
そして、その気持ちを律して領民のために使える人間がどれだけいるだろうか。
少なくとも、カナタの父親だった元ブレイド伯爵のヤールスには絶対にできないことだっただろう。
「アルマ、お客様にお茶を頼んだよ」
「かしこまりました、レフィ様」
屋敷にはメイド服を着た一人の若い女性のアルマがおり、レフィの言葉を受けてカナタたちに会釈をすると、そのまま台所へ下がっていった。
カナタたちが応接室へ通されると、すぐにお茶をワゴンに載せたアルマが入って来て、それぞれの前に並べていく。
「それでは話を聞かせてもらおうか」
「かしこまりました、ライルグッド殿下」
こうして、レフィからの説明が行われた。
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