第199話:領都ラズガンダ
フェルトレントとの一戦を終えたカナタたちは、その後を順調に進んでいき、ついにランブドリア領の領都であるラズガンダがその視界に入った。
だが、それは喜ばしいことではなく、むしろ表情を曇らせる事態に陥っていた。
「……ラズガンダから、黒煙があがっています」
カナタの呟きに、手綱を引いていたライルグッドたちは馬を急がせる。
リッコも追い掛けるようにして馬を走らせると、カナタは彼女にしがみついてラズガンダの高い外壁を見つめるのだった。
しかし、ラズガンダに到着すると予想していた最悪の事態だけは避けられた。
門の外から見えただけなのだが、ラズガンダに魔獣が入ってきたわけではなく、討伐した魔獣の素材を焼いているところが確認できる。
だが、疑問がないわけではない。
通常であれば討伐した場所、つまり都市の外で魔獣を処理するのが普通なのだが、ラズガンダの中で焼いている。
「……誰も外に長居したくない、ということでしょう」
「だが、状況は変わるだろうな」
推測を口にしたアルフォンスに対して、ライルグッドも口を開く。
「フェルトレントが倒されたっすから、魔獣の流れも変わるはずっす」
「その通りです。きっと流れは変わるはずです」
リタとロタンも同じ意見だった。
しかし、門の外で入場を待たされているカナタたちには周囲の人々から奇異の視線が浴びせられている。
それもそうだろう、今のランブドリア領は魔獣が闊歩する地になっており、カナタたちはそこへ外からやってきたのだから。
そこに駆け付けたのは、ランブドリア侯爵の私兵たちだった。
「貴様たち、何者だ!」
「外からやってきたと聞いたが、人に化ける魔獣ではないだろうな!」
兵士たちは武器を構えてカナタたちへ向ける。
今のランブドリア領の状況を鑑みれば仕方ないのかもしれないが、彼らが武器を向けている相手が誰なのかを知れば、腰を抜かしてしまうかもしれない。
「聞くがいい、ラズガンダで生活を送る国民たちよ! 私はアールウェイ王国の第一王子であるライルグッド・アールウェイである!」
ライルグッドがそう宣言すると、兵士たちは驚きと共に大量の汗を額に浮かび上がらせる。
「ランブドリア領の現状は聞いている! きっと陛下もすぐに動いてくれることだろう! だが、援軍が来るまでにどれだけの犠牲が出るのか、それを危惧して私たちはこの地へやってきた! 私も手を貸そう! 故に皆も今しばらく辛抱して欲しい! さすれば援軍が訪れ、今の現状を変えてくれるであろう!」
誰に対して宣言したわけではない。
しかし、ライルグッドの言葉は周りにいた全ての人たちの耳に届いていた。
「……そうだ、もうすぐ援軍が来るに違いない」
「……私たちは、まだ生きているもの」
「……信じるんだ……ライルグッド殿下を、信じるんだ!」
徐々に人々から声があがり、その声は大きなうねりとなり人から人へと広がっていく。
「こちらへ到着する前、私たちはSランク魔獣であるフェルトレントを討伐した! きっと流れは変わる! いいか、皆の者! 諦めるな、希望を捨てるな! アデルリード国の国民に、沈んだ顔は似合わないぞ!」
最後の仕上げと言わんばかりに、ライルグッドはフェルトレントの討伐完了を口にすると――歓喜の声が爆発した。
「……すごいですね、これ」
「ライル様は狙ってやっていたっぽいね」
「あー、やっぱり?」
外から見ていても気づけるくらい、ラズガンダの人たちの表情は沈んでいた。
兵士たちも同様で、必死に表情を作ってはいるものの、カナタたちから見れば疲労の色が濃く出ており、いつ倒れてもおかしくない状態にまで陥っていた。
「……本当に、ライルグッド殿下、なのですか?」
武器を構えていた一人の兵士がそう呟くと、ライルグッドは力強い笑みを浮かべた。
「ランブドリア侯爵に会わせてくれるな?」
「はっ! も、もちろんでございます! すぐにご案内を――」
「その必要はない」
兵士が我に返って案内を買って出ようとしたところへ、門の内側から声が掛かった。
「お久しぶりでございます、ライルグッド殿下」
そこへ現れたのは、美しい青の長髪を風になびかせたランブドリア侯爵、その人だった。
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