第198話:討伐完了

「三人とも、無事か?」

「大丈夫です、ライル様」

「リタは魔力枯渇の症状が出ていますね。よく頑張りました」

「へへへ、ありがとうございますっす」


 カナタたちの中で一番疲労しているのは間違いなくリタだろう。

 今はなんとか立っているものの、その表情は青ざめており、パッと見でも体調が良くないのはすぐにわかる。


「……リタ、ごめん」


 そんな彼女の姿を見ると、カナタは謝らずにはいられなかった。


「どうしてカナタ様が謝るんすか?」

「俺は、自分を鍛えるために賢者の石をギリギリまで使わなかった。でも、そうするべきじゃなかった。リタがそこまで苦しくなる前に……いいや、最初から賢者の石に頼るべきだったんだ」


 自分の我がままのせいでリタに負担を掛けてしまったことを、カナタは悔いていたのだ。


「そんなこと、気にする必要ないっすよ」

「でも!」

「私は私の仕事をしただけっすからね。それに、カナタ様に守られる護衛なんて、必要なくなっちゃうっすから」

「……そんなこと、誰も思わないって」

「ありがとうっす」


 苦しそうな表情をひた隠し、リタはカナタへニコリと笑みを向ける。

 そんな彼女を見ると、カナタはやはり胸が苦しくなってしまう。


「カナタ君が強くなるために協力してくれたんだから、カナタ君もリタちゃんに何かお返しをしなくちゃじゃないかしら?」

「お返しって言われても、俺は剣とかしか作れないんだけど?」

「そうかしら〜? だって、賢者の石って、錬金術じゃない?」


 リッコが何を言わんとしているのかすぐに理解できなかったカナタだが、錬金術と言われてハッとする。


「……そうか! 錬金術なら、魔導士のための装備も作れるのか!」

「そういうことよ〜」

「……いったい、どういうことっすか?」


 同行している中で、リタとロタンだけがカナタの錬金鍛冶を実際には見ていない。

 故に、リタは二人の話を聞いていてもすぐにはピンときていなかった。


「け、けけけけ、賢者の石いいいいっ! カ、カナタさんは、やっぱり凄腕の錬金術師だったんですね!」

「……錬金術師っすか?」

「あー、いや、厳密には違うな」

「なんでよ! 殿下と共に行動する人間で、賢者の石を持っているなんて……まさか、聖都から盗み出したとか――」

「そんなことしませんよ! ちゃんと作りました!」

「ほらああああっ! やっぱり凄腕の錬金術師じゃないですかああああっ!」


 さらに興奮し始めたロタンにため息をつきながら、まずはリタへの説明を優先するべきだと考えた。


「俺が錬金鍛冶っていう力を持っていることは前に話よな?」

「は、はいっす」

「それは鍛冶もできるし、錬金術もできるんだ」

「でも、それは単に二つの作業を一人でできるってことじゃないんすか?」


 普通であればそう考えるだろう。そして、どちらにも手を出したということは、どちらも中途半端である可能性が高いと。


「俺の場合、それぞれを別の方法でやるわけじゃなく、錬金鍛冶って力でどちらもできる。だから……まあ、自分で言うのもなんだけど、どっちも一流の腕を持っているんだ」

「ついに認めたのね、カナタ君!」

「……まあ、錬金術に関してはまだ数をこなせていないから、一流かどうかはわからないけどな!」


 リッコに茶化されてすぐに否定してしまったが、それでも本気を出せばリタも満足する装備を作れるとカナタは信じていた。


「け、賢者の石を作れる錬金術師が、一流でないわけがありませんよ!」

「……って、ロタンさんも言っていることだし、たぶんそうなんだと思う」

「……は、はぁ」

「そこで、俺にリタさんの装備を作らせてほしいんだ」

「…………ええええぇぇええぇぇっ!?」


 リタにとって予想外だったのか、カナタがそう告げると驚きの声をあげた。


「私たちの装備も全部、カナタ君が作ってくれたのよ」

「最高の品が出来上がると保証しましょう」

「俺のシルバーワンは、一等級だからな!」

「……い、一等級の剣を作れる、錬金、鍛冶師?」


 激しい戦闘を終えて、いまだに頭がはっきりしないリタにとって、何がどうなっているのかすぐに理解することは難しかった。

 しかし、唯一理解できていることはある。それは――


「お、お願いするっす! 私に、最高の装備を作ってほしいっす!」


 ここで断れば、自分の成長を大きく妨げるということだった。


「もちろんだ! 幸いなことに、魔獣の素材は山のように確保できたからな、そこからリタの魔法適正にあった素材を選んで作ることにしよう!」

「あ、ありがとうございますっす!」

「……カ、カナタさん? わ、私には、賢者の石をじっくりと見せてほしいんですが?」

「戻っていいよ、賢者の石」

「酷い! あんまりよおおおおっ‼︎」


 なんとなく、ロタンの雰囲気が怖くなったカナタはすぐに賢者の石を自分のところへ戻すと、彼女から悲鳴にも似た声が響き渡ったのだった。

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