第196話:フェルトレント⑥
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はあっ!」
「カナタ様! 下がってくださいっす!」
「は、はい!」
リタの指示を受けて大きく飛び退いたカナタがいた場所へ巨大な火柱が立ち上がる。
触手のいくつかは燃えてしまうが、まだまだ触手の数は残っている。
再び前進して剣を振るい触手を斬り落としていくが、すぐに防戦一方となってしまう。
「マ、マジックウォール!」
「ありがとうございます!」
多重展開マジックウォールの最後の一枚はまだ辛うじて残っており、リタとロタンを守ってくれている。
カナタも本来であれば安全圏から触手を斬っていく予定だったのだが、自らの判断でマジックウォールを飛び出して剣を振るっていた。
「だ、だだだだ、大丈夫なんですか、カナタさん!」
「大丈夫です! これくらい、どうってことありません!」
「血が出てるっすよ! 今は下がってくださいっす!」
「リタもギリギリだろう! それなら、俺が頑張らないとな!」
リタが倒れれば終わりだということを、カナタは理解している。
だからこそ、危険だとわかっていながらマジックウォールの外に出てなるべく多くの触手を斬り落とそうと奮闘していた。
しかし、カナタがどれだけ頑張ろうとも触手は無限ではないかと錯覚してしまうほど大量に湧き出てきており、彼の心も徐々に疲弊し始めていた。
「それじゃあ、いってきます!」
「ちょっと、カナタ様!」
リタの制止を振り切って再び飛び出したカナタは、アルフォンスとの訓練を思い出しながら必死になって剣を振るっていく。
体に傷を負いながら、ギリギリ致命傷を避けての迎撃にリタやロタンは冷や冷やさせられるが、今の時点で何を言ってもカナタが止まることはないと理解している。
ロタンはただ祈ることしかできず、リタはカナタの周囲に意識を向けながら残り少ない魔力を駆使して魔法で迎撃を行っていく。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、くそっ! まだ終わらないのか!」
額の汗を拭いながらそんな言葉を呟いたカナタだったが、その僅かな動きが致命的な時間ロスに繋がってしまう。
「カ、カナタ様! 危ないっす!!」
「あ、足元から!?」
汗を拭う間際、カナタの意識は視界に入っている触手にだけ向いていた。
そのせいもあり、真下から突き出してきた触手への警戒を怠ってしまったのだ。
「うわあっ!?」
足元の地面が抉られてバランスを崩したカナタは、その場で尻もちをついてしまう。
そして、フェルトレントは殺せる獲物から狙うことを無意識下で実行しようとしていた。
「マジックウォール!!」
カナタの目の前に顕現した無数のマジックウォールが、彼へ殺到してきた触手を受け止める。
ほとんどがすぐに砕けてしまったが、この僅かな時間の間にカナタは態勢を立て直して多重展開マジックウォールの内側へ転がり込む。
「た、助かったよ、リタ!」
「……すみません、カナタ様、ロタンさん」
「ど、どうしたんですか、リタ様?」
「……今ので、魔力が、もう」
そこまで口にした途端、リタの体がぐらりと揺れた。
慌てて支えたカナタだったが、直後には最後のマジックウォールが自壊してしまう。
カナタを守るために発動させたマジックウォールは、リタに魔力枯渇を引き起こさせてしまった。
「ぁ、ぁぁぁぁ……」
「くっ!」
左手でリタを支えながらも右手で剣を構えるカナタ。
そんなカナタたちをあざ笑うかのように、触手はうねうねと蠢きながら眺めているように見えた。
『ブジュルルララアアアアァァアアァァッ!!』
怖気が走る咆哮をあげながら、ついに触手が獲物を食らい尽くさんと殺到してきた。
「このままでは、終われないんだよ!」
カナタはすでに傷だらけである。
強い気持ちを持つことは大事だが、それだけではどうしようもないことの方が多いだろう。
しかし、カナタには切り札が一つ残っている。
むしろ、その切り札がどうして今の今まで何もせずに大人しくしていたのかと勘繰りたくなる者もいるだろう。
「頼むぞ――賢者の石!」
カナタの意思に従って、懐から賢者の石が飛び出した。
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