錬金鍛冶師の生産無双 生産&複製で辺境から成り上がろうと思います

第195話：フェルトレント⑤

　リタのマジックウォールが砕けた時の衝撃波はリッコたちのところへも届いていた。

「これは、マズいぞ！」

「ねえ！　どうして魔獣を倒してきたのに、こんなに多いのよ！」

「フェルトレントが、後ろから回り込ませたのでしょう！」

　一直線に戻ろうとしていたリッコたちだが、そこへ襲い掛かってきたのはＢランクからＡランクの魔獣の群れだ。

　アルフォンスが魔獣を討ち漏らしていたわけではなく、言葉の通りでフェルトレントの仕業だった。

「アルの魔法でどうにかならんのか！」

「魔力の消費が多過ぎて、最初のような威力は出せません！」

「カナタ君たちを助けるのは！」

「それの方が難しいです！　カナタ様たちを巻き込んでしまいます！」

　強力な魔法ほどコントロールが難しくなってしまう。

　フリジッドがある今なら強力な魔法でも完全にコントロールすることも可能かもしれないが、万全の状態ではないこの状況で試すことはできなかった。

「まさか本体を逃がしてしまうなんて、失態です！」

「今はそれを口にしても仕方がないだろう！」

「そうですよ！　早く戻らないと、カナタ君が！」

　ここに至りリッコは、自分の行動が如何に愚かだったかを痛感してしまう。

　カナタの恋人でありながら、彼の護衛としてついてきているつもりであったリッコだが、いつしか自分が満足できるように自ら前線に立ち続けていた。

　それを誰も指摘することはなく、さらに上手くいっていたからこそ調子に乗ってしまったのだ。

（カナタ君とアル様の会話は聞こえていた。それなのに私は聞こえないふりをしてしまった。それもこれも、自分の我がままのため！）

　表情を後悔に染めながら、リッコはアクアコネクトを振り抜いて魔獣を倒していく。

　だが、いつの間にか攻撃が単調で大振りになっており、倒した魔獣の後方から飛び掛かってくる別の魔獣への反応が遅れてしまった。

「しまっ――」

「はあっ！」

『ゲギャガッ!?』

　殺されると思った直後、横合いから飛び込んできたライルグッドが魔獣の首を一振りで落とした。

「ボーっとするな！」

「あ、ありがとう、ございます」

「リッコ様！　後悔しているのは我々も同じです！　今はカナタ様たちを助けることだけを考えましょう」

　アルフォンスの言葉を受けて、リッコはハッとした表情を浮かべる。

　後悔しているのはリッコだけではない。ライルグッドとアルフォンスも同様に後悔しており、どれだけ文句を言われようとも誰かを護衛として置いておくべきだったと考えていた。

「……すみません、わかりました！」

「それとな、リッコ。お前が丁寧な言葉を口にしているのは、違和感しかないな」

「……何よ、それ？　もしかして、意地悪を言って励ましているつもりですか？」

「んなあっ！　……もういい！　普段通りに戻ったみたいだからな！　さっさとお前の恋人を助けに行くぞ！」

　本心を見抜かれてしまい、ライルグッドは顔を赤くしながら魔獣を倒すために離れていく。

　その後ろ姿を見つめながらクスリと笑ったリッコは、両頬を強く叩いて気合いを入れ直した。

「……よし！　本当にすみませんでした！　最短距離で行くわよ！」

「当然だ！」

「出し惜しみはできませんね。魔法で道を切り開きます！　あとは剣技の身だと考えてください！」

「アルの剣技であれば、魔法がなくても問題ないだろう！　やれ！」

「はっ！」

　力強い返事のあと、カナタたちがいる場所まで一直線に氷の氷柱が地面から突き出したのだった。