第194話:フェルトレント④

 ――ゴゴゴゴゴゴ。


 ものすごい地鳴りと共に地面が揺れている。

 それも地鳴りは徐々にこちらへと近づいてきており、カナタたちは何が起きたのかと視線をリッコたちの方へ向けた。


「あれって、倒したんじゃないのか?」

「わ、私もそう思ったっすけど、違うんすかね?」

「……フェルトレントは、養分を地面に突き刺した根っこから吸収すると言われています」


 カナタとリタが困惑を口にしている間、ロタンはフェルトレントの生態を思い出しながらぶつぶつと呟いている。


「地面から養分をって、それって結局はどうなるんですか?」

「……もしかすると、パッと見では体を真っ二つにされて死んだように見えていても、実は死んだふりをしていてこちらの隙を伺っている可能性があります」

「でも、それならどうして地鳴りはこっちに近づいてきているっすか? 隙を伺うなら、こっちじゃなくてあっちに何かが起こりそうなもんっすよね?」


 リタの疑問も当然である。

 むしろ、死んだふりをするなら今起きている地鳴りを起こさずに即座にリッコたちを攻撃したはずだ。

 そこまで考えたカナタたちの中で、自ずと答えを閃いてしまう。

 しかしそれは嬉しいことではなく、最悪の結果として三人の表情を青ざめさせていく。


「……これ、間違いないよな?」

「……かもしれないっすね」

「……あわ、あわわわわ!?」


 地鳴りを伴う地震に加えて、その音が徐々にこちらへ近づいてきている。それはつまり――


「「「フェルトレントが、こっちに来ている!?」」」


 ――ドゴオオオオォォンッ!!


 三人が声をあげた直後、地鳴りを伴い突き進んでいたフェルトレントの根っこが地面から飛び出してきた。


「ぎゃああああぁぁああぁぁっ!!」

「ファ、ファイアウォール!」

「か、掛かってこい!」


 ロタンが大声で悲鳴をあげる中、リタは全力の魔法で根っこの触手を防ごうとファイアウォールを顕現させ、カナタは震える体で剣を握り構える。

 リッコたちとの戦闘により弱っていたフェルトレントの触手は、ファイアウォールによっていくつかは燃え尽きてしまう。

 しかし、全てが燃え尽きたわけではなく、むしろファイアウォールを貫いて迫ってきた数の方が多かった。


「ウインドカッター!」


 複数の風の刃が周囲へと広がり、迫ってきた触手を迎撃していく。

 焦げた触手が徐々に細切れになっていく中、さらに数本の触手が傷を負いながらも迫ってくる。


「多重障壁マジックウォール!」


 自分たちの近くでファイアウォールを顕現させるのは火が燃え移る可能性もあり危険が伴う。

 ならばとリタは魔力の壁を顕現させるだけではなく、それを三重に重ねて発動させた。


『ブギュルリャリャアアアアァァアアァァッ!!』


 触手がマジックウォールに激突すると、衝撃で周囲の空気が震えて小石や砂が地面から僅かに舞い上がる。

 それでも完全に受け止め切った――かに見えたが、乱打を受けると一枚目のマジックウォールがバキバキという音と共に砕け散ってしまう。


「ぐうっ!?」

「リタさん!」

「だ、大丈夫っす! お二人は、絶対に私が、守り抜くっす!」


 強がって見せているリタだったが、その魔力は底を尽きかけていた。

 全力のファイアウォール、ウインドカッター、さらに多重展開で発動させているマジックウォール。

 ここに至るまでにも何度か魔法を使ってきている。

 アルフォンスに頼まれたという思いを胸に、リタは最後の最後まで力を絞り尽くそうとさらに魔力を込めていく。


「最後のマジックウォールに触手が近づいて来たら、俺も迎撃します」

「む、無茶はしないでほしいっす!」

「ここで無茶をしないと、三人とも殺されるぞ!」


 カナタの言葉にリタはグッと唇を噛み、ロタンは不安そうに二人を見つめている。


「……わかったっす。でも、危ないと思ったらすぐに引き返してほしいっす!」

「わかった。ありがとう、リタ」

「それはこっちのセリフっすよ!」

「リッコたちが来るまで耐え抜くぞ!」

「了解っす!」


 こうして、カナタたちの戦いが始まった。

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