第193話:フェルトレント③
一人では防戦一方だったアルフォンスも、リッコたちと合流してからは水を得た魚のように縦横無尽に動き回り、攻撃にも防御にも活躍を見せている。
遅れてきた二人もここへ至るまでに出会った魔獣を全て掃討してきている。
故に、残っている魔獣はフェルトレントのみであり、他を警戒しながら戦う必要がないとあって嬉々として愛剣を振るっていた。
「アルの言う通り、一気に片を付けるとしよう!」
「そう簡単な相手じゃないでしょうよ、ライル様!」
「ですが、カナタ様たちも心配ですし、なるべく迅速に終わらせましょう!」
「……それもそうですね!」
「おい! 俺の時と態度が違わないか!?」
リッコとしては態度を変えたわけではない。
単にカナタのことが心配だったから素直に頷いただけだった。
『ブジュルルララアアアアァァアアァァッ』
「うおっと!」
「あの触手、邪魔ね!」
「もう少し減らせれば、あとはどうにでもなると思います!」
すでに半分以上の触手を凍らせているが、それでも触手の数は多い。
リッコたちが攻勢とはいえ一撃でも食らえば致命傷になりかねない威力を持っており、そうなると形成は一気に逆転してしまう。
「それじゃあ、手あたり次第斬っていけばいいってことね!」
「サンダーウェーブで焼き切る! 頼むぞ、アル!」
「お任せください!」
リッコがマジックブレイドを飛ばすと、逆側にライルグッドがサンダーウェーブを放ち一気に触手の数を減らしていく。
アイスワールドの冷気を強めたアルフォンスによって傷口から一気に凍りついていくフェルトレントの無数にあった触手は、気づけば数一〇という数えられるくらいにまで減少していた。
「この程度なら、触手を斬り捨てながら本体を攻撃することも容易ね!」
「お前も来い、アル!」
「お供いたします、殿下!」
リッコ、ライルグッド、アルフォンスが三方向から一気にフェルトレントへ襲い掛かる。
フェルトレントは残った触手で迎撃するものの、全てが斬り飛ばされてしまい三人の前進を阻止することができない。
それだけではなく、残り少なくなった触手も斬り飛ばされるたびに凍らされてしまい、再生することができないでいる。
ついに三人の斬撃がフェルトレントの体に傷をつけていく。
攻撃と同時に凍りつかせようとしたものの、体の場合は再生能力の方が早く完全に凍りつかせることができない。
それでも外皮が削り取られていくことで太く逞しかったフェルトレントの体は、徐々にではあるが細く弱々しいものへと変化していく。
『ブ、ブジュルルゥゥ』
「真っ二つにしてくれる!」
「これで終わりよ!」
触手の動きが緩慢なものになっていくと、ライルグッドとリッコがさらに加速してフェルトレントの体を切り刻んでいく。
そして、渾身の力で振り抜かれた最後の一閃は、フェルトレントを上部、真ん中、下部に切り裂いてしまった。
「よしっ!」
「Sランク魔獣も、私たちに掛かればこんなもんよ!」
「カナタ様の武器のおかげでもありますね」
張りつめていた緊張の糸が僅かに緩み、三人は小さく息を吐き出す。
しかし――フェルトレントはまだ終わってはいなかった。
『――ブギュルリャリャアアアアァァアアァァッ!!』
「「「――!?」」」
間違いなくフェルトレントの体は三つに分かたれている。
しかし、根を張り体を動かしていた下部の部分だけが、いまだに命を繋ぎ止めていた。
フェルトレントが大咆哮をあげたと同時に地鳴りが聞こえ始め、地面が揺れる。
「こいつ、まだ生きていたのか!」
「止めよ――きゃあっ!?」
「リッコ様! アイスウォール!」
地面から突き出してきた新たな触手――フェルトレントの根っこによってリッコが後方へと弾き飛ばされる。
アルフォンスは防御を固めるためにアイスウォールを形成して様子を見るが、状況は最悪の方向へと転がり始めていた。
「……まさか、カナタ様たちを!」
「アルは急ぎ戻れ! 俺がリッコを担ぐ!」
「わ、私は大丈夫よ! アル様、お願い!」
「わかりました!」
アイスワールドによってフェルトレントの体を完全に凍りつかせたアルフォンスだったが、それも僅かな足止めにしかならなかった。
全力で来た道を戻っていくアルフォンスが見たもの、それは――地面を突き進みカナタたちの所へ到達した無数の触手が飛び出した光景だった。
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