第192話:フェルトレント②
「アイスドーム」
触手がアルフォンスへ到達する間際、彼は氷の結界を顕現させた。
周囲の水蒸気を固めてできたドーム型の結界は、全ての触手を受け止めてしまう。
とはいえ、フェルトレントの触手は間を置かず攻撃を続けており、このままでは防戦一方。
アイスドームも絶対に砕けないという保障はなく、アルフォンスは身動きが取れない状況――ではなかった。
「遅いですね」
『ブジュリャ!?』
いつの間にか背後へ回り込んでいたアルフォンスは、鋭くフリジッドを振り抜けフェルトレントの大きな体に一筋の傷を作る。
それだけではなく、傷口から剣身を通して冷気を送り込み、直接内側を凍らせてしまおうと試みたのだ。
『ブギュルリャリャアアアアァァアアァァッ!』
しかし、フェルトレントもただやられるわけにはいかない。
自らの体を傷つけることをいとわずに触手をアルフォンスへ殺到させると、外皮を削りながら彼を吹き飛ばしてしまう。
「重いですが、鋭さはありませんね!」
触手攻撃を受け流し、切り裂きながら徐々に後退していく。
ある程度距離を作ると再びアイスドームを顕現させて防御を固めた。
「ミラーアイス」
アイスドームの中で繰り出された二つ目の魔法によって、アルフォンスは先ほどもフェルトレントに気づかれることなく背後を取ることができた。
アイスフィールドによって氷の世界と化した森の中において、氷の鏡は完全に彼の姿を隠してしまう。
触手の攻撃は間断なく繰り返されているが、それはアイスドームの前面のみであり、後方はその限りではない。
砕かれる前に後方から外に出て移動を行い、再びフェルトレントへ攻撃を加えていく。
その度に内側から凍らせようと試みている――しかし、何故かダメージが思っているように入っていかない。
『ブギュルリャリャアアアアァァアアァァッ!!』
「くっ! ……なるほど、そういうことですか!」
自らの外皮が剥がれることもいとわずに再び攻撃を仕掛けてきたフェルトレントだったが、これはアルフォンスを攻撃するためだけではなかった。
氷によってダメージを受けた外皮は、そこから徐々に内側へ氷を侵食していくはずだったが、その部分もろともフェルトレントは粉砕してしまっている。
それだけならば外皮のない部分へ攻撃を加えるだけで大きなダメージを与えることも可能だったはずだが、フェルトレントは瞬時に自己治癒を行い強固な外皮を復活させていた。
さらに、何度か攻撃を繰り返したアルフォンスは気づいてしまう。
「外皮が、硬くなってきている!」
再生を繰り返すたび、より強固な外皮となって復活してしまう。
蓄積されているダメージもあるはずだが、それよりも早く、フェルトレントは強さを増してしまっていた。
「これは、時間を掛けると厄介ですね!」
『ブギュルリャリャアアアアァァアアァァッ!!』
「ちいっ!」
攻撃の手も段々と苛烈を極めてきており、アイスドームが砕ける時間も早くなっている。
ミラーアイスを使った奇襲にも気づかれてしまい、アルフォンスは本当の意味で防戦一方になり始めていた。
「さすがはSランク魔獣ですね。本当であれば私だけで片付けたかったのですが、仕方ありませんね」
アルフォンスがため息交じりにそう口にした直後――フェルトレントの左右から二つの影が飛び出してきた。
「一人で何をしているか、アル!」
「私たちも交ぜなさいよね!」
鋭く振り抜かれたシルバーワンとアクアコネクトにより、無数あった触手の半分近くが一気に切り落とされる。
地面の氷を砕きながら散らばっていくと、二人はさらに前進して本体へ攻撃を仕掛けていく。
『ブ、ブギュルリャリャアアアアァァアアァァッ!!』
「やらせませんよ!」
驚異的な再生速度で外皮を復活させていたフェルトレントは即座に触手の再生を試みたものの、傷口が突如として凍りつき再生が追いつかない。
「一気に片付けるぞ!」
「休んでいる暇はないですよ、アル様!」
「……その通りですね!」
三人が剣先をフェルトレントへ向けると、第二ラウンドが開始された。
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