第191話:フェルトレント①

 一瞬にして凍りついていく眼下の森。

 森の中を突き進んでいた魔獣の群れも同じように凍りついていき、様々な場所から悲鳴にも似た呻き声が聞こえてくる。

 肝心のフェルトレントはといえば、一瞬だけ動きが止まったように見えたものの、すぐに地面へ繋ぎ止めていた氷を粉々に砕き、再び歩みを再開させた。


「ダメージは……ほぼ皆無ですね」

「ほう? アルの魔法を受けてダメージを受けないとは、なかなかやるじゃないか」

「さっさと終わらせるとは言ったけど、意外と難しいかもしれませんね」


 最初こそ強気な発言をしていた三人だったが、実を言えばあれはカナタたちを安心させるための方便だった。

 相手は今回のように災害にも近いことを引き起こしてしまうSランク魔獣だ。

 本来であればAランク以上の冒険者パーティが複数であたりようやく倒せるかどうかという規模の相手であり、それをたった三人で相手取ろうというのだからなかなかに無理がある。

 それでもやらなければならないと感じているのは、今回の騒動があまりにも異常なことだからだ。


「私が正面から行きます! 殿下は右から、リッコ様は左からお願いします!」

「仕方ない、正面は譲ってやる!」

「適材適所ですよ、ライル様!」


 散開していった三人は、凍りついた魔獣とすれ違う度に軽く剣を振るっていく。

 アイスワールドによって表皮だけではなく、肉体の内側まで凍結してる魔獣は軽い衝撃だけでそのまま粉々に砕けてしまう。

 これが素材回収を目的とした討伐なら使いものにならないが、完全なる掃討を目的とするのであれば全く問題はない。


「これなら案外余裕で――うわっ!」


 リッコが今までと同じように剣を振ろうとした直後、氷を砕いて襲い掛かってきた魔獣が現れた。

 そこから同様の魔獣が現れ始め、リッコたちは散発的な戦闘を余儀なくされる。

 フェルトレントから離れた場所にいた魔獣は比較的小柄であり、ランクの低い魔獣が多かったが、近くにいる魔獣はそうではなかった。

 Bランク以上の魔獣で固められており、中にはAランク魔獣も存在している。

 キングアントの時のように規模を縮小して威力を高めたアイスワールドであればAランク魔獣にも効果はあっただろうが、範囲を広げたことで威力が半減してしまった今回では完全な凍結には至らなかった。


「それでも、動きが阻害されているから戦いやすいわ!」


 最初こそ不意打ちに驚いたリッコだったが、しっかりと攻撃は回避している。

 そこからは気を引き締め直してBランク魔獣と対峙し、隙を見せることなく斬り捨てていく。

 言葉にした通り、本来のBランク魔獣であればリッコでも多少の苦戦を強いられただろう。それが数を成しているのだから、もしかすると危険を伴っていたかもしれない。

 しかし、アイスワールドによって大小はあれどダメージを受けている今の状態であれば、単独で数を倒すことも可能になっていた。


「シルバーワンの糧になるがいい!」


 それはライルグッドも同じであり、鋭い太刀筋で魔獣を斬り捨てながら前進を続けており、足を止めることはしていない。

 その中で怒涛の勢いで前進しているのは、やはりアルフォンスだった。


「アイスランス! アイスバレット!」


 凍りついた魔獣を魔法で打ち砕き無駄な動きを使わずに前進する。

 動き出した魔獣に対しては魔法で威嚇をしたあと、動きが鈍ったところへフリジッドの一振りで仕留めてしまう。

 Aランク魔獣に関してだけは一振りでというわけにはいかなかったが、それでもリッコやライルグッドよりも前進する速度は速く、最短距離を進んでいたこともありフェルトレントの下に一番で到着した。


『……ブジュリュリュルルゥゥ』

「殿下のお手を煩わせるわけには参りません。申し訳ないが、さっさと死んでください」

『ルルゥゥ……ブギュルリャリャアアアアァァアアァァッ』


 魔獣なりにアルフォンスの挑発に気づいたのか、彼の言葉のあとに巨大な咆哮をあげたフェルトレントは、無数の枝に似た触手を蠢かせて襲い掛かってきた。

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