第189話:魔獣を率いる魔獣
結果として、カナタたちは寄り道をしてでも周辺の魔獣を一掃することの方が大事だと判断した。
人あっての国なのだということをライルグッドもわかっており、アルフォンスも一切反対などしなかった。
とはいえ、どこにどんな魔獣がいるのかもわかっておらず、広い領地を手探りで探さなければならない状況になっていた。
「何か魔獣が群れになっている場所のヒントはないのかな?」
カナタの呟きは誰もが考えているものなのだが、それに対して口を開く者は――一人だけだった。
「……あっちだと思います」
「ロタンさん?」
片膝を地面につけながらじっくりと下を見つめていたロタンが、急に街道を外れた南の森の中を指差した。
「……なるほど、足跡ですか」
「はい。不自然なまでに多くの魔獣の足跡が南の方から流れてきています。これが根拠になるわけではありませんが、あちら側から逃げてきている、もしくは群れを率いているランクの高い魔獣が南からこちら側へ移動しているかもしれません」
「前者であれば楽なのだが、後者だと面倒だな」
ただ魔獣が流れてきているだけであれば、時間が掛かるとしても最終的には魔獣を掃討することが可能だろう。
しかし、相手が魔獣を率いることのできるランクの高い魔獣であれば、相手によってはこちらが全滅する可能性も考えなければならなくなる。
「……まあ、後者だとなおさら俺たちがいかなければならないだろうな」
「そうですね。他の者では犠牲が増えるだけでしょうから。ランブドリア領にSランク冒険者がいれば話は別ですが、いたとしても王都に駆り出されていることでしょう」
「だったらなおさら私たちが行くしかないわねー」
「頑張るっす!」
「場所を探るなら私も行きます。少しでも皆さんの力になりたいので!」
全員が同意したことで一路進路を南に向けたカナタたちだったが、そこでも魔獣との遭遇が止まらない。
それも街道の時とは比べものにならない程の遭遇率、それも統率された動きでこちらへ襲い掛かってくるところを見るに、誰もがロタンの意見が後者であったと考えてしまう。
事実、その予想は的中しており、南下していくにつれてカナタでもわかるくらいに、強力な魔獣からの威圧を感じることになった。
「……キングアントよりも、怖いな」
「間違いなくSランク魔獣だろう」
「腕が鳴るわねぇ~」
「気を引き締めてまいりましょう、皆さん」
「こちらです。……ふぅ~」
「頑張りましょうっす、ロタンさん! 私も怖いっすから!」
カナタもそっち側なのだと口にしたかったが、女性同士だからか二人は肩を寄せ合いながらライルグッドたちの後ろを進んでいる。
「……カナタ君も怖いんでしょう? 私とくっつく?」
「い、今はいいよ」
「今は? それじゃああとでならいいってこと?」
「……リッコ、お前なぁ」
「こんな状況だからこそ、普段通りでいることが大事なのよ」
最初はからかっているのかと思ったカナタだったが、最後の言葉を聞くとハッとした表情でリッコを見る。
すると彼女はウインクをしながら快活な笑みを浮かべた。
「少しは肩の力が抜けたかしら?」
「……あぁ、そうだな。ありがとう、リッコ」
「どういたしまして。でも……」
「ん? どうしたんだ?」
急に声が小さくなったリッコを見て、カナタは首を傾げる。
そんな彼の耳の横に唇を持っていったリッコが呟いた。
「……本当にくっつくなら、二人の時でお願いね?」
「――!? お、お前なあ! マジで何を言ってんだよ!」
「あはは! 冗談だけど、本気だよー!」
「ほんっ!? ……はぁ。ちょっと待て、緊張どころか力が抜け過ぎそうだ、止めよう」
頭を抱え始めたカナタを横目にリッコはクスクスと笑っている。
「おい! そろそろだからいちゃつくのは止めておけよ」
「いちゃついてませんからね!」
「リラックスできて何よりです」
顔を真っ赤にしたカナタでは説得力があまりにもなく、全員が苦笑を浮かべている。
それがさらに恥ずかしさを助長し、カナタは口をパクパクさせたあと、盛大にため息をついたのだった。
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