第188話:魔獣狩り

 翌朝、カナタたちは早い時間から街をあとにした。

 話を聞いていた門番長が見送りに来てくれたが、その表情は曇り気味だ。

 それも当然で、彼はライルグッドだけではなくカナタたちのことも心配してくれていた。


「本当に行かれるのですか?」

「俺たちにもやらなければならないことがあるからな」

「……かしこまりました。道中どうかお気をつけくださいませ。王都からの援軍が参りましたら、殿下たちのこともお伝えしておきます」

「よろしく頼む」


 こうしてカナタたちはさらに東の方へと進んでいった。


 ここからは魔獣との戦闘が連続して続いた。

 一回の戦闘を皮切りに、戦闘音を聞きつけた別の群れが集まってくるという悪循環に陥ってしまったのだ。

 リッコたちだけでは手が足りず、カナタも駆り出されて魔獣を退けていく。

 今までリッコたちが使っていた武具であれば途中で刃こぼれを起こしたり、アルフォンスであれば魔法を使って武具が完全に破壊されていたかもしれない。

 追い込まれることもなく魔獣を退け、使命を達成するべく前に進むことができているのも、全てかカナタが作り出した武具のおかげだった。


「まだまだ来るぞ! 気持ちを引き締めろよ!」

「言われなくてもわかっているわよ!」

「カナタ様、指導した時のことを思い出してください」

「わかりました、アルフォンス様!」

「ひ、ひいいいいぃぃっ!!」

「魔法! いくっすよ!」


 奥から突っ込んで来る魔獣の群れ目掛けてリタが魔法を放ち、続けてアルフォンスも思う存分に魔法をぶっ放す。

 国家魔導師であるリタよりも強力で広範囲に影響を及ぼすその魔法を目の当たりにして、リタは何度も目を丸くしている。


「国家魔導師よりも魔法が得意な騎士ってどういうことっすか!」


 そんな文句も飛び出すくらい、アルフォンスの魔法は規格外の破壊力を誇っている。

 さらにアルフォンスは魔法だけではなく、その剣技もこの場にいる誰よりも優れているということもあり、リタからすれば何が起きているのかさっぱりわからないといった状況になっていた。


「カナタ様! そちらに一匹送ります!」

「は、はい!」


 加えて魔獣の動きをしっかりと把握し、戦い慣れしていないカナタへの指示とサポートも忘れていない。

 ここまで来ると、アルフォンスだけで何役こなしているのだと、リタだけではなく他の面々も同じような感想を抱いていた。


「化け物ね、アルフォンス様って」

「だからこそ、俺の護衛騎士になったんだがな」

「勿体なくない?」

「それはどういう意図を持って勿体ないと言っているのだ?」

「さぁねぇ~」

「……ここが戦場でなければ一発ぶん殴っているところだぞ!」


 規格外なのはアルフォンスだけではない。

 リッコとライルグッドは数十を超える魔獣の群れの中心で剣を振るいながら、お互いに文句を言い合っている。

 ここまでの道中で何度も隣り合い戦ってきたこともあり、言葉を交わさずともどのように動くのかを二人は理解し合っている。

 そうはいっても数十の魔獣の群れを前にして文句を言い合うなんてことをできる猛者がどれほどいるだろう。

 ましてや相手は魔王復活の兆しを告げるかのようにして現れた暴走気味の魔獣である。一瞬でも判断を誤ればたちどころに殺されてしまうに違いない。


「うっわー、まだまだ来るわねー」

「こうなったらいっそのこと、この辺りの魔獣を全て狩り尽くしてもいいのではないか? 周辺の安全も確保できることだしな」

「あっ! それいいかも! ライル様はそのことをアル様に聞いて来てちょうだい」

「ん? お前が行けばいいじゃないか」

「いやいや~。さすがに第一王子を群れのど真ん中に置いてけぼりにはできないでしょうよ」


 リッコが当然のようにそう答えると、ライルグッドは驚きの顔を浮かべた。


「な、何よ?」

「いや、リッコが俺のことを王族だと理解していたことに驚いたのだ」

「失礼ね! 私をなんだと思っていたのよ!」

「礼儀知らずな冒険者」

「私がぶん殴ってやるわよ!」

「冗談だ。だが、ありがとう。一度下がるぞ」

「なんだったら戻って来なくていいですよーだ!」


 文句を言いながらも後方への道を作ってくれたリッコに軽く会釈をし、ライルグッドは後方へと下がっていく。


「……さあ、私と遊びましょうか!」


  残されたリッコはアクアコネクトを握りしめると、まるでダンスを踊るかのように剣を振りながら舞い始めたのだった。

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