第187話:門番長の話
門番長が言うには、魔獣は領地の端から突如として現れた。
そこから扇状に広がりを見せていき、元々縄張りにしていた魔獣を追い払い、食らい、さらに強くなって中央へと侵食していったのだと。
領境に近いここはまだいい方で、領都は今や魔獣を押し止める防壁と化しており、防壁の手が届かないところから漏れ出てきた魔獣がこちらに流れてきていた。
「つまり、領都やさらに奥へ向かえば向かうほど、魔獣が強くなっているということか?」
「そのように聞いております。私どもでは情報を手に入れることもままならず、実際に領都が今、どのような状況になるのかもわからないのが実情です」
思っていたよりも深刻な事態に、ライルグッドは腕組みをしながら考え込んでしまう。
すでに早馬は出されているので急ぎ戻る必要はない。
しかし、カナタたちの目的でもある火属性に適性の高い素材を手に入れるにはあまりにも状況が悪過ぎる。
「どうしますか、ライル様? 一度戻るという選択肢もあると思いますよ?」
「もしくはこの場に留まりランブドリア領の助けとなるかですね」
リッコとアルフォンスがそれぞれの意見を出し合うと、その視線は当然ながら再びライルグッドへと向けられる。
しかし、彼の答えはそのどちらでもないものだった。
「……魔獣が強くなっているということは、手に入る素材の質も良くなるということではないか? どうだ、ロタン?」
「えぇっ!? わ、私ですか!!」
「あぁ。考古学者としての知識を借りたい。魔獣を食らった魔獣が強くなることで、手に入る素材が良くなることはあるのか?」
ライルグッドから突然の質問を受けたロタンは最初こそ慌てていたものの、すぐに考古学者の表情になり思考を巡らせていく。
「……魔獣専門の学者ではありませんのではっきりとしたことは言えませんが、その可能性が大いにあるかと思います」
「どうしてそう思う?」
「そもそも、ランクの高い魔獣から良い素材が取れるというのは誰もが知っている事実です。元が弱い魔獣だったとしても、成長して進化を続けることでランクの高い魔獣となり、討伐した時に手に入る素材が質の高いものとなります」
「それが今回の魔獣にも当てはまると?」
「そう考えるのが自然ではないかと思います。自然発生の魔獣ではなくとも、そこは変わらないかと考えます」
ロタンの意見を聞いたライルグッドは、カナタたちへ視線を向けた。
「……だそうだが、どうする?」
「勇者の剣を作るには、最高の素材が手に入るかもしれないということですね?」
「でも、危険過ぎるんじゃないかしら? ただでさえ強い魔獣なんでしょう? レッドホエールは」
「Sランク魔獣で間違いありませんからね。それがさらに進化しているとなると……Sランクの中でも規格外の実力を持つことになるのは間違いないかと思います」
「しかし、勇者の剣を作るのに妥協を許していいと思うか? 俺は思わんがな」
ライルグッドの中ではすでに答えは決まっている。
今は同行する者たちの意思確認を行っているに過ぎなかった。
そのことに気づいているカナタたちは、顔を見合わせると大きく一度頷いた。
「仕方ないよな」
「我がまま王子様に付き合うのも大変ね、アル様」
「殿下についていくのが、私の役目ですから」
「わ、私なりに頑張るっす!」
「私も……怖いですが、覚悟はできていますから!」
「……いや、ロタンは残ってくれても構わんぞ?」
「嫌ですよ! どうして私だけ置いていくつもりなんですか!?」
ロタンを心配してのセリフだったが、彼女はすぐに否定してついていくと口にした。
「……全く。命知らずな奴らだな」
「それをライル様に言われたくはないと思いますよ?」
「はは! カナタも言うようになったじゃないか!」
こうしてカナタたちは、街に一泊してからボルフェリオ火山へ向かうことにしたのだった。
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