第186話:驚愕と警戒と

 魔獣を掃討することに成功したものの、この場で野営をすることは不可能だと判断したカナタたちは、休むことを諦めて先へ進むことにした。


「さっさと次の街に入った方が、多少は休めるだろうからな」

「それに情報も手に入れられるでしょう」


 疲労の色の濃いロタンには申し訳ないが、彼女も了承したうえでの強行軍なのでなるべく早く到着したかった。

 だが、そうさせてくれないのが魔獣であり、ここの街道はすでに魔獣の縄張りと化していた。

 間断なく魔獣と遭遇してしまうが、群れで行動しているわけではない。

 故に、ライルグッドとアルフォンスが前に出て積極的に魔獣を討伐し、非戦闘員であるロタンへの負担をなるべく少なくさせていた。


「私も行きたいな~。ねえ、カナタ君。私も行きたいな~」

「お、俺も非戦闘員だからな? 二人乗りの時点で無理だからな?」


 現状、カナタはリッコと、ロタンはリタと二人乗りで乗馬している。

 自由に動けるのはライルグッドとアルフォンスだけであり、だからこそ二人が前に出て魔獣を狩っている。

 ここまで来ると第一王子なのにという言葉は誰も口にすることはなく、むしろアルフォンスが前に出ていることに違和感を覚えるほどになっていた。


「そろそろ見えてきてもいい頃っすけどねぇ」

「……は、早く、休みたいです」

「やっぱり残っていた方が良かったんじゃないですか、ロタンさん?」

「だよねー。ここまでハードになるとは私も思わなかったけど、それでも考古学者にはきついんじゃないの?」


 ワーグスタッド領から王都への旅路の中で、カナタは魔獣との経験値を積んでいる。

 年齢ではロタンの方が上でも、魔獣との経験値という面で見れば同じ非戦闘員でもカナタの方が断然上だった。


「だ、大丈夫です! 私だって覚悟の上でついてきたんですから!」


 しかしロタンはすぐに表情を引き締め直して前を向いた。


「カナタ! 街の外壁が見えてきたぞ!」


 そこへライルグッドからの声が聞こえてきた。

 わかりやすくロタンがホッとした表情を浮かべ、それを見たカナタたちは笑みを浮かべる。

 馬の速度を少し早めて進んでいくと、ロタンからも街の外壁が見えてきたのかその表情は自然と笑みを浮かべていた。


「しかし、外壁が見える街道沿いでも魔獣が現れるとは……相当に深刻なようですね」

「確かにな。それだけ、戦力が一ヶ所に集められているということだろう」


 ランブドリア領の領都が保有する戦力では事足りず、他の都市からも戦力を招集したのだろう。

 だからこそ目の前の街のように街道の魔獣狩りもままならず、魔獣の縄張りが広がり続けている。

 このままでは魔獣の活性化を抑えることができたとしても、その後の各地の整備が困難を極めることになるはずだ。


「……各地の整備が困難になるとわかっていても、戦力を集めなければならない状況ということか」


 思案顔を浮かべながらそう口にしたライルグッドだが、また魔獣が姿を見せたことですぐに剣を手に取り馬を走らせる。

 こうして魔獣を狩りながら進んでいき、カナタたちは夜も深まった時間でようやく街に辿り着いた。


「な、何者だ!」


 門番の男性が槍を構えながらも震えている。

 大量の魔獣が徘徊する夜の街道を進んできたのだから、警戒されるのは当然だとアルフォンスが前に出た。


「怪しいものではありません。私たちは王命を受けてランブドリア領に入りました。野営もままならず夜の街道を進んできたので、どうか中へ入れていただけませんか?」

「お、王命だと!? 少し……いえ、少々お待ちください!」


 言葉遣いを直した兵士が慌てて門の内側へ入っていくと、ほどなくして上長と共に戻ってきた。


「お、お待たせしてしまい申し訳ありません! 私、門番長のゲルゼスと申します!」

「いえ、今の状況では仕方がないことだと理解しております。こちらが王命を証明する書状です。それと、あちらの方が……」

「あちらの方ですか? ……なあっ!?」


 兵士は気づいていなかったが、門番長はライルグッドの顔を見ると顔を青ざめながら相手が誰なのかを理解した。


「す、すすすす、すぐに中へ入れて差し上げろ!」

「わ、わかりました!」


 こうして開かれた門から中へ入ったカナタたちだったが、すぐに宿屋へは向かわずに門番長と話をすることにした。

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