第185話:魔獣の群れ
リタの言う通り、街道沿いに広く平らな場所が存在していた。
しかし、そこはすでに魔獣の縄張りと化しており、狼に似た魔獣――ブレイドウルフが群れで何かを咀嚼している場面に遭遇した。
「……まさか、人間ですか?」
「ひいっ!?」
カナタの問い掛けにロタンが悲鳴にも似た声を漏らしたが、最悪の展開は回避されていた。
「腐敗臭や血の匂いはしないので、違うと思います」
「そうね。人間を食べているなら、もっと臭ってくるだろうし」
「恐らくは野営をしていた何者かがブレイドウルフの群れに襲われ、持っていた食糧を放棄したのだろうな」
人間ではないと知ったカナタはホッと胸を撫で下ろしたが、すぐに現実へ引き戻される。
「でも、この状態だと野営は難しそうっすね」
「そうねー。魔獣の糞尿にまみれた場所で野営なんて……考えたくもないわ」
確かに腐敗臭や血の匂いはしないが、リッコが口にするように魔獣の糞尿の臭いが風に乗ってこちらに来ており、カナタだけではなく全員がその臭いに顔を顰めている。
「やっぱり倒してから先へ進むんですか?」
「それしかないだろうな。魔獣を放置するわけにはいかんし、俺たちならあの群れ程度なら相手にならんしな」
「他の人が被害に遭うのも考えたくないからね」
そう口にしながらもライルグッドたちは戦闘準備を整えていく。
「まずは私が左右と後方に氷魔法で壁を作り逃げ場を奪います。そこへリタが火属性魔法を放ってください」
「わかりましたっす!」
「倒し切れずに飛び出してきた奴を私たちが倒すのね!」
「最初から俺たちが突っ込んでいってもいいが、まあ仕方ないか」
「えっと、殿下は殿下なんですよね?」
まさかライルグッドが自ら飛び出してもいいと口にするとは思わなかったのか、ロタンは意味不明な質問を口にしている。
カナタたちは慣れたものだが、やはりライルグッドの戦闘狂な性格は他の者からすると考えられないことだった。
「その後、リタは二人の援護をお願いいたします。私は念のためにカナタ様とロタン様の護衛に回ります」
そして、アルフォンスが護衛に回ってくれると聞くと、ロタンはわかりやすくホッとしていた。
「それでは、気づかれる前に仕掛けましょう。いきますよ、リタ!」
「はいっす!」
リタの返事を受けた直後、周囲の空気が一瞬にして震えるほどの冷気に変わった。
『グルルゥゥ……ゥゥ?』
空気が冷えたことに気づいたブレイドウルフが顔をもたげた途端、群れの左右と後方に巨大な氷の壁が顕現した。
「フレイムバーン!」
『ガルアアアア――キャイン!?』
ブレイドウルフがこちらに気づき咆哮をあげた瞬間、地面から炎が噴き出したかと思えば一瞬にして炎が地面を穿ち弾け飛んだ。
爆発の中心にいたブレイドウルフは肉体を弾け飛ばし、近くにいた個体も炎に包まれ、弾けた石礫に体を穿たれて悶え苦しんでいる。
フレイムバーンは一ヶ所に留まらず、二ヶ所、三ヶ所と地面を穿ち弾け飛ぶ。
リタによって多くのブレイドウルフが絶命、または負傷してその場に転がっているのだが、中には軽傷だった固体や無傷のブレイドウルフが黒煙を突っ切って反撃に転じてきた。
「来るぞ、リッコ!」
「わかっているわよ!」
「え、援護するっす!」
飛び込んできたブレイドウルフに対して、ライルグッドとリッコは素早く剣を閃かせて一瞬のうちにその首を落としていく。
飛び出てきた数は二桁に迫るものだったが、二人が後方へブレイドウルフを抜けさせるということはない。
リタも援護をしようと構えていたが、結局は最初の魔法以外に出番はなかった。
黒煙が晴れていくと動ける個体は一匹として残っていなかったが、それでも相手は魔獣である。
確実に首を落としていく作業を終わらせると、カナタたちはようやく一息つくことができたのだった。
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