第184話:ランブドリア領の魔獣

 ランブドリア領に入ってからというもの、今までの道中とは打って変わり魔獣との遭遇が頻発した。

 最初こそランブドリア領に生息する魔獣との遭遇だったが、それでもおかしなところはある。

 本来であれば山奥や森の奥に縄張りを作っているような魔獣が街道まで押し寄せてきているのだ。

 魔獣自体は大したことはなかったものの、どうしても違和感を拭うことはできない。

 これも魔王復活の兆候だと考えるのであれば、勇者の剣を作るという王命は絶対に成し遂げなければならないとカナタたちは考えるようになっていた。


「……マズいですね」


 馬を走らせながら、ふとアルフォンスがそんなことを呟く。

 一番前を進んでいたこともあり、彼が右手を挙げると全員が少しずつ速度を落としていき、街道のど真ん中で停止した。


「どうしたのだ、アル?」

「そろそろ野営地を決めた方がいいかもしれません。昼間の襲撃に時間を取られ過ぎたようで、日があるうちに次の街へ辿り着くことは難しそうです」

「そうか。ならば仕方ないが……今のランブドリア領で野営をするなど、俺たち以外にはいないだろうな」

「笑い事ではありませんよ、殿下」


 ライルグッドは苦笑しながらそう口にすると、アルフォンスはため息をつきながら苦言を呈す。

 とはいえ、ライルグッドも本気で笑っているわけではないので肩を竦めながら辺りを見回した。


「しかし、この辺りで野営のできる場所か」

「もう少し先へ行くと、街道の邪魔にならない広い場所に出るみたいっす!」

「でしたらそこまで進み、今日はそこで野営を行いましょう」


 ライルグッドたちがテキパキと予定を決めていく横で、一人顔を青ざめている人物がいた。


「……大丈夫ですか、ロタンさん?」

「ひゃいっ! ……えっ? あ、もちろん大丈夫ですよ! わ、私だって野営くらいはしたことありますからね!」

「そりゃそうでしょうよ。考古学者なんだから」


 ダンジョンだけではなく、歴史的価値の高い場所へ赴く際、ロタンは野営を当たり前のようにこなしている。

 しかし、それは比較的安全だと確認が取れている場所での話であり、現在進行形で危険だと言われている場所での野営というのは今回が初めてだ。

 故に、緊張も仕方がなく、そのことをリッコは十分に理解していた。


「大丈夫ですよ、ロタンさん。私はAランク冒険者ですし、ライル様だってそれなりに実力を伴っています。さらに言えば、私たちよりも断然強いアル様がいますからね!」

「おい! 聞こえているぞ、リッコ! それなりとはなんだ、それなりとは!」

「わ、私もいるっす!」

「そうよね! 国家魔導師のリタだっているんだから、大丈夫に決まっていますよ!」

「俺のことは無視かよ!」


 リッコとライルグッドのやり取りを見ていたロタンは、最初こそどう反応していいのかわからずに慌てていたものの、ちょっとした口論になると表情がキョトンとし始め、最終的には小さく笑い始めていた。

 その姿を見た二人は口論を止めると、お互いに顔を見合わせて一つ頷いた。


「さて! それじゃあ、ロタンさんも落ち着いたところで出発しましょうか」

「あっ! すすす、すみませんでした!」

「いいのよー。でも、私たちは絶対に危険な目に遭わせないから、そこだけは信じてちょうだいね」

「……リッコさん」

「俺も本当は怖いんだけど、リッコやライルグッド様たちがいるから平気でいられるんだ。だからロタンさんもみんなを信じよう」

「カナタさんまで……は、はい! ありがとうございます! 私も皆さんを信じます!」

「よーし! それじゃあ行きましょう!」


 ロタンが落ち着いたところでカナタたちは馬を走らせた。

 リタの話ではこの先に広い場所があり、そこで野営をすることができるとなっている。

 しかし、その場所が見えてくるとカナタたちは表情を引き締め直すことになった。

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