第183話:ランブドリア領
王都から東へ向かい三日が経過した。
道中では魔獣と相対することもあったが、王都の冒険者ギルドで話を聞いた縄張り外の魔獣と遭遇することはなかった。
だが、ボルフェリオ火山まではまだまだ距離があるので、ランブドリア領に入ってからも油断はできないと気を引き締めている。
関所ではライルグッドのおかげで通行料を支払う必要はなかったのだが、そこで魔獣に関する新たな情報を得ることができた。
「お気を付けください、殿下。ランブドリア領ではここ最近、魔獣の動きが活発化しているという情報が入っております」
「魔獣の活発化だと?」
眉間にしわを寄せながらライルグッドは兵士の話に耳を傾ける。
冒険者ギルドで聞いた縄張りの外で活動する魔獣が増えたこともそうだが、本来ランブドリア領で見かけなかった魔獣まで見かけるようになったという。
そこにはBランク以上の魔獣も複数存在しており、中にはAランク魔獣の目撃例まであったというのだから驚きだ。
「Aランクってことは、キングアントと同じくらいってことか?」
「ランクで言えばそうね。でも、Aランクからは単純な実力だけじゃなくて、魔獣が持つ特性でランクが高くなる個体もいるから、簡単に分けることはできないかなー」
キングアントが巨体を活かした力押しをしてくるタイプだとすれば、Aランク魔獣の中には魔法に特化した個体もいれば、毒を周囲に撒き散らして近づけさせない魔獣なんかもいたりする。
他にも特別戦い難かったり、硬すぎて傷をつけられなかったり、速すぎて全く見えなかったり、多種多様なのだ。
「今回目撃されているのは、ミスリルゴーレムです」
「ミスリルゴーレムだと? それならば冒険者が押し寄せているだろうな」
「はい。ミスリルは貴重な素材ですから。ですが、そのせいもあって被害が拡大しているところでもあります」
アルフォンスが持つフリジッドにも使われているミスリルは、魔力との親和性が非常に高い素材だ。
オリハルコンやアダマンタイトよりは劣るが、貴重な素材の中では比較的確保しやすいということから、冒険者の間では狙い目の素材とされている。
とはいえ簡単に手に入るわけではなく、今回のようにAランク魔獣と戦い被害を被ることも考えると、ハイリスクハイリターンと言わざるを得なかった。
「Aランク以上の冒険者はどうしている?」
「ランブドリア領にもいるにはいるのですが、他の依頼で手一杯だったり、動ける冒険者も魔法特化でミスリルゴーレムとは相性が悪く、手をこまねいている状況です」
「ランブドリア侯爵の私兵は何をしている?」
「そ、それが……」
ここで言い淀んだ兵士だったが、相手が第一王子だと思い出したのか、グッと唇を噛みしめながら口を開いた。
「……現在、ランブドリア領では魔獣の大量発生が確認されております」
「な、なんだと!?」
「昨晩、王都に早馬を飛ばしたところでございます」
「殿下、どうやら入れ違いだったようですね」
「どうりで縄張りを超えて魔獣が活動しているわけだ」
「これは、厄介なことになりそうね」
「……なんだ? どうしたんだ?」
唯一理解できていないカナタが視線を周りに向けると、会話に参加しているライルグッドたちだけではなく、リタやロタンまで表情をこわばらせていた。
「……魔獣の大量発生、聞いた覚えがあるだろう?」
「確かにどこかで聞いたような……あっ! ゆ、勇者の――ぶふっ!?」
カナタが『勇者の剣』と口にしようとしたところで、リッコが後ろからその口を閉ざしてしまった。
「……カナタ君! 勇者の剣についてはまだ秘密でしょうが!」
「……ぼ、ぼべん」
耳元で注意を受けてしまい、カナタは苦しそうに謝罪を口にする。
「しかし、魔獣の大量発生が起きているとなれば、それを無視することはできませんね」
「そうだな。それに、俺たちの目的を達成するためにも解決しておく必要がありそうだ」
「ボルフェリオ火山にも予想外の魔獣が現れる可能性が出てきちゃったもんねー」
関所の兵士からさらに多くの情報を仕入れたあと、カナタたちはその場をあとにしてランブドリア領に入ったのだった。
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