第182話:いざ、東へ
カナタたちはその日からそれぞれで準備を始めた。
東へ向かうのに必要な食糧やその他の消耗品、それに火山へ向かうのだからある程度の情報は必要だろうと冒険者ギルドにも駆け込んだ。
とはいえ、情報の正確性はボルフェリオ火山に近い街の方が手に入るだろうということで、あくまでもあればいいかな程度のものだが。
その際、ボルフェリオ火山についてではないが、東に向かう道中で普段は見ないような魔獣の目撃例が挙がっているという情報があり、話を聞いていたリッコは僅かに眉間へしわを寄せた。
そうして訪れた三日後、カナタたちはライルグッドに呼び出されて城へ足を運んでいた。
「いったいどうしたんだ?」
「わかんないわ」
「わ、わわわわ、私、何かしちゃったでしょうかああああっ!?」
城の前まで来ると、ロタンが門から離れた場所で右往左往しており、カナタたちが声を掛けて一緒に城へ足を踏み入れている。
ロタンも呼び出されたということは、ボルフェリオ火山へ向かうことが理由だろうとカナタは考えていた。
「やっぱり、ライル様を連れていくのはダメとかじゃないか?」
「まあ、あれでも第一王子だもんねー」
「あれってなんだよ、あれって」
普通に会話をしている二人とは異なり、ロタンはあわあわしながら周りに視線を向けている。
そっちの方が不審者に見られるんじゃないかとカナタは思ってしまったが、声を掛けると変な声をあげそうだったのであえて何も言わなかった。
「こちらへどうぞ」
案内をしてくれた男性が示した場所は、王の間ではなく城の中に多くある部屋の中の一つだった。
等間隔にドアが並んでいることから、騎士や使用人が一時的に泊まるような部屋ではないかと思い、いったいここに何があるのかと疑問に思いつつもドアを開けた。すると――
「遅かったではないか」
「…………へ、陛下?」
「……ど、どうして陛下が、このような部屋に?」
「どっひゃああああぁぁっ!! へ、へへへへ、陛下ですってええええぇぇっ!?」
「……はぁ。やると思った」
特別広くもなく、狭いわけでもない部屋の中で鎮座していたライアンを見て、カナタとリッコが呆気に取られている横で、ロタンはまさかの陛下登場に驚愕してしまう。
同じ部屋にいたライルグッドは顔を手で覆いながらため息をつき、アルフォンスとリタは苦笑いを浮かべていた。
「ほほう? そなたが古文書の解読を行ったというロタンであるな?」
「はっ! はひっ! そうであります!」
「そう緊張するでない。勇者の剣について、よく調べてくれたのう」
「も、勿体ないお言葉、ありがとうございまする!」
「……するって何よ、するって」
リッコが小さな声でツッコミを入れているものの、それに緊張と興奮でわけがわからなくなっているロタンが気づくはずもない。
その中でカナタだけはどうして呼び出されたのかが気になってしまい、視線をライアンとライルグッドの間で何度も往復させていた。
「今日、東のボルフェリオ火山へ向かうことを伝えたら、どうしても激励したいと言い出してな。こうして足を運んでもらったというわけだ」
「大々的に送り出すわけにもいかんからのう。故にこのような狭い部屋に連れて来たのだ、すまんかった」
「い、いえ! 激励していただけるだけでもありがたいことです、陛下!」
カナタが慌ててそう伝えると、ライアンは柔和な笑みを浮かべて口を開いた。
「難しい願いを聞き入れてくれて、本当に感謝しておる。じゃが、頼めるのはカナタしかおらん。ボルフェリオ火山だけではなく、他にも入手困難な素材があるとも聞いておる。……頼むから、無理だけはしないようにな」
「ありがとうございます、陛下。ですが、無理をしなければ手に入らないような代物ばかりです。ライル様が怪我をしないよう、細心の注意を払って素材確保にあたりたいと――」
「いやいや、ライルに関しては修行の意味もあるからこき使ってくれ。我はカナタの方が心配じゃからな」
「……えっと、いや、その」
「あー、気にするなよ、カナタ。父上はこのようなお人だからな」
カナタが困惑していると、ライルが苦笑しながらそう説明してくれた。
「さあ、父上。激励はこれくらいでいいでしょう。俺たちはそろそろ行きますからね?」
「それもそうじゃな。では頼んだぞ、ライル。それに、カナタたちよ!」
短い時間で、少ない言葉だったが、それでもライアンからの言葉はカナタたちに力を与えてくれた。
絶対に成功させよう、そう心に誓いながら、カナタたちはアルゼリオスをあとにしたのだった。
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