第180話:再び倉庫へ
「……とはいえ、ゲルフォブタートルは目撃例自体がほとんどない魔獣でもあります。今すぐに倒して素材を手に入れるということも難しいでしょうから、まずは別の素材から当たりましょう」
アルフォンスの言葉に、その場にいた全員が小さく息を吐き出した。
ゲルフォブタートルといえばSランク魔獣として有名であり、さらに同じSランク魔獣の中でも上位の実力を有する魔獣とも言われている。
今のカナタたちだけで倒せるのかと聞かれると、誰もが絶対に無理だと答えたに違いない。
ならば他の素材を集めながら実力を磨き、装備を充実させて、準備を整えてから挑むのが一番だということになった。
「それならば、さっさと倉庫に向かうとするか」
「やったー! ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます!」
「わ、わかったから、少し黙っていてくれ!」
「はい! …………どれだけ黙っていたらいいですか?」
「もう無理なのか!」
ゲルフォブタートルの名前が出た時は少しだけ沈んだ空気になっていたものの、ロタンのおかげか雰囲気は一変して明るいものになっている。
カナタやリッコからは笑みがこぼれ、アルフォンスは苦笑を浮かべていた。
「では参りましょう。ロタン様はくれぐれもはぐれないよう、ご注意ください」
「もちろんです! こんなところではぐれたら殺されちゃいますからね!」
「冗談抜きで、そうなる可能性がありますのでご注意ください」
「……はいぃぃ、気をつけますぅぅ」
今度はアルフォンスがロタンを脅すような立場となり、彼女も体を硬直させて素直に返事をしていた。
その姿を見たライルグッドは、ロタンの相手はアルフォンスに任せてしまえばいいかと密かに考えていた。
こうして再び訪れた王城の倉庫なのだが、国王であるライアン・アールウェイの剣を作った時にも素材は片っ端から見ている。
改めて倉庫の素材を確認したのだが、やはり勇者の剣を作るに足る素材を見つけることはできなかった。
「うーん、どれも素晴らしい素材ではあるんですけどねぇ」
「一般に流通していない素材も多くあるが、難しいのか?」
ライアンへ献上したグラビティアーサーを作った時には感じた素材の正否が、今回はまったくと言っていいほど感じられない。
ということは、この中に勇者の剣の素材になり得るものがない、ということではないだろうか。
一つひとつを見ていけば各属性に特化した素材も多く取り揃えられている。
しかし、これが絶対に一番だと言えるような素材ではなく、他者から見れば喉から手が出るほど欲しい素材でも、勇者の剣にと考えると足踏みしてしまうようなものばかりだ。
「……これはやはり、俺たちで取りに行くしかなさそうだな」
「あー……やっぱりそうなりますか?」
「でしょうねー。でも、ライル様やアル様は行けないでしょう?」
ライルグッドはこの国の第一王子だ。
さすがに危険だとわかり切っている場所に連れていくわけにはいかないだろうとリッコは口にしたのだが、当の本人は首を傾げてポカンとしている。
「……ん? 何故だ?」
「いや、何故って、絶対に危険な場所に行くことになるのよ? いくら私でも、それくらいの気遣いはできるわよ」
「むしろ、リッコたちだけに向かわす方が危険だろう。なあ、アル」
「殿下の仰る通りです。本来であれば諫めなければならない立場ですが、事今回に限って言えば王命ですからね。役目を全うさせていただきます」
まさかの答えにカナタとリッコが驚きを隠せずにいると、ずっと黙ってついてきていたリタも口を開いた。
「わ、私も行くっす! まだ役に立てていないっすから、今回こそは役に立ちたいっす!」
「でもリタちゃん。本当に危険なのよ?」
「構わないっす! これでも国家魔導師っすから!」
リタの判断をカナタたちが決めることはできず、視線は自然とライルグッドへと向く。
「……わかった。俺から魔導師長には話をつけておこう」
「あ、ありがとうございますっす!」
「だ、だだだだ、だったら、私も一緒に行きます!」
「「「「……はい?」」」」
続けて同行を願い出てきたロタンには、カナタにリッコ、ライルグッドにアルフォンスまでが驚きの声を漏らした。
「……すまないが、ロタンに関してはさすがに」
「お願いします! 私――危険な場所にある考古学的な場所に足を運ぶのが夢だったんです!」
「……あー、そっちねぇー」
「知識だけなら誰にも負けません! 同行者としての許可をよろしくお願いします!」
何やら愛の告白っぽい発言になっていたが、ロタンとしては本気の申し出だった。
それは彼女の表情を真正面から見ていたライルグッドも理解しており、だからこそどうするべきか悩んでしまう。
「……命の危険が迫った時、俺たちが助けられるとは限らんぞ? それでもいいのか?」
「は、はい! 一人で行くよりは、生きて帰れる可能性は高いと思うので!」
「…………はぁぁぁぁ。わかった、もう何も言わん」
「あ、ありがとうございます! ヒャッホー!」
何が嬉しいのかわからない。内心ではそう思っていたカナタなのだった。
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