第179話:古文書の内容

「――ふああああぁぁっ! これ、すごい文献じゃないですか! こっちの古文書は王家所蔵で伝説的な文献になっているんですよ! あぁぁ、そんな乱雑に積んじゃダメですよ!」


 カナタたちが文献を読み漁っていた部屋にやってきたロタンは、今まで見たことのなかった貴重な文献の山を目の前にして大興奮だ。

 自分が解読した古文書の入った鞄を放り投げてまでテーブルの文献に目を向けているので、実はとても貴重なものだっだのだとカナタは顔を青くしていた。


「……ラ、ライル様? あの文献、もう少しきれいに片付けましょうか?」

「ん? いや、構わんだろう。勇者の剣については書かれていなかったのだからな」

「それよりもロタンさん、あれだけ登城を嫌がっていたのに、来たら来たで大興奮じゃないのよ」

「考古学者からすると、喉から手が出るほど手に入れたい文献でしょうからね」

「……アル様は価値を知っていたんですね?」

「はい。ですが、あれは古文書を解読して翻訳された文献ですからね。本物の古文書は別で保管されていますから」


 アルフォンスの言葉のホッと胸を撫で下ろしたカナタだったが、興奮したまま『はぁはぁ』と肩で息をし始めたロタンを見て呆れてしまう。

 いつ現実に戻ってくるかを見守っていたカナタたちだが、いつまでたってもこちらを見てくれなかったので、仕方なくリッコがつかつかと近づいていった。


「ちょっとーっ!」

「うわあっ!? ……ど、どうしたんですか、リッコさん?」

「どうしたんですか? じゃないわよ! 早く古文書について教えてちょうだい!」

「……こ、この文献たちを目の前にして、無視しろと言いたいのですか! 無理です、私には無理ですよ!」

「もしよろしければ、勇者の剣について教えていただければこちらの文献を手に取ってみても構いませんよ?」

「えぇぇっ! そ、それは本当ですか! わかりました、すぐにでもこちらの古文書の内容をお伝えいたしましょう! さあ、ご準備を! さあ、さあ!!」


 文献が読めるとわかった途端、ロタンの態度が180度変わった。

 全くやる気のなかったロタンは鞄を拾い上げると、テーブルの空いたスペースにドンッと古文書と書類を取り出す。

 ギラギラした目でこちらを見てくる姿は、獲物を見つけた猛獣のようだった。


「……わ、わかった。ならば話を聞こうか、ロタンよ」

「はい!」


 そこからのロタンは饒舌となり、登城を嫌がっていたとは思えないほどキラキラした瞳で語り始めた。

 勇者の剣は魔法に対する全属性を備えており、不壊ふかい――絶対に破壊されない性質も持っており、剣にも盾にもなる剣である。

 この世界で手に入れられる最高品質の素材を可能な限り集め、凝縮して融合させて作り出した勇者の剣の価値は計り知れず、大国の国家予算数年分とも言われている。


「この世界で手に入れられる最高品質の素材だと?」

「明確にこれがそうだ! とは示してはくれないんですね」


 ライルグッドが首を傾げながら呟き、カナタは素材が確定できず顔を顰める。


「魔法の基礎属性は火、水、風、土、木、金の六属性。これら六属性に親和性の高い最高品質の素材、ということでしょうか」

「あり得そうね。でも、それならここの倉庫にもありそうじゃない? もう一度見て回った方がいいかもね」


 アルフォンスが話の中から素材の予想を立てると、リッコは腕組みをしながらもう一度倉庫を確認するべきじゃないかと提案する。


「えぇっ! 私も入れるんですか? 入れるんですよね? いいや、入れてください!」

「わかった、わかったから! ……それで、他に情報はないのか?」

「ありがとうございます! 素材に関しては魔獣や鉱石、全ての中で最高品質のものらしいです! それの、不壊属性は魔獣の素材と記されていました!」

「……不壊の魔獣……まさか!」

「何か心当たりがあるんですか、アル様?」


 ロタンの説明を聞いたアルフォンスが思わず声を漏らし、それを耳にしたカナタが声を掛ける。


「……不壊の魔獣と称されている魔獣が存在しています。それは――ゲルフォブタートル。全長10メートルを超える、超巨大な水棲の魔獣です」


 勇者の剣の素材と思われる素材が一つ見つかったものの、それの獲得には多くの課題があると理解した瞬間でもあった。

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