第178話:小休止と急展開

 ロタンの屋敷を大掃除してから一週間が経過した。

 その間もカナタたちは準備されていた文献を読み漁っていたのだが、結局は勇者の剣についての情報を得ることはできず、リッコは息抜きだと口にして頻繁に冒険者ギルドへ足を運んでいた。

 そのリッコだが、王都の冒険者とも顔見知りになっており、ダンジョン攻略の際に最後まで攻略を続けていたパーティと臨時でパーティを組み依頼をこなしていたと聞いた時には驚きを隠せなかった。


「お前はどうしてそうもすぐに仲良くなれるんだ?」

「そこは性格かなー。まあ、ライル様は絶対に無理だろうけどねー」

「……こいつ、褒めてやろうかと思ったら、こっちを貶しやがって!」

「殿下の場合は立場もありますので、致し方ないかと」

「アル様はすぐにライル様を庇うんだからー」

「護衛騎士ですので」


 ここまで来るとカナタもリッコの態度どうこうで心配になることはなく、むしろすごいなと感心するところまで来ていた。

 とはいえ、ライルグッドたちも時折リッコと一緒に冒険者ギルドに足を運んだりしている。

 これはリッコが無理やりではなく、ライルグッド曰く『市井の調査だ』とのことだ。

 冒険者登録をしていないライルグッドとしては旨みのないことだが、リッコがAランク冒険者であることで依頼自体は彼女が受けており、報酬も問題なく懐に入ってくる。

 ライルグッドとしては自由に使える莫大なお金があるわけで、自分が体を動かせれば問題ないと、嬉々として剣を振るっていた。


 ◆◇◆◇


 そうしてさらに二週間が経過した頃である。


「殿下、門番よりロタン様からの伝言が届きました」

「もしや、ようやくか!」

「はい。古文書の解読が完了したことと――必要な情報が記されていたとのことです」


 アルフォンスの言葉を聞いたカナタとリッコは顔を見合わせて笑みを浮かべ、ライルグッドは椅子から立ち上がりグッと拳を握りしめた。


「すぐにいくぞ!」


 そして、カナタとリッコの案内でロタンの屋敷へと向かった……のだが。


「……こ、ここで、いいんだよな?」

「……そうなんですけど」

「……これは、なんといいますか」

「……な……なんで……二週間でここまでゴミが溜まるのよおおおおぉぉっ!!」


 魔法袋に収納できるゴミは全て収納したはず。

 それにもかかわらず、屋敷の庭には大量のゴミが積み重なっていたのだ。


「ちょっと! ロタンさん! ロタンさーん!」

「おい、リッコ!」


 リッコが乱暴にドアを叩きながら呼び掛けると、中からパタパタと足音が聞こえてきて、ガチャリと開いた。


「皆さん! ようこそいらっしゃいました!」

「……ねえ、ロタンさん? あなた、なんでそんなに笑顔なの?」


 まさかの満面の笑みでの出迎えに、リッコは唖然とした表情で問い掛ける。


「だって、古文書の解読が終わったんですよ! それに、皆さんが欲していた情報もあったわけですから、嬉しいに決まっているじゃないですか!」

「……なあ、ロタンさん。俺たちが言いたいのはそこじゃなくて、あっちなんだけど?」

「えっ? あっちって……お庭ですか?」


 ゴミが積み重なっているのがさも当然かの如く答えたロタンを見て、カナタたちはゾッとしてしまう。


「大丈夫です! 家の中はきれいなままを保っていますから! 殿下をお上げしても全く問題ありませんよ!」


 ニコニコと笑いながらそう口にされ、今度はライルグッドとアルフォンスも顔を引きつらせた。


「……なあ、アルよ。俺はこの屋敷に入らなければならないのか?」

「……やはり、王城へ呼び出した方が良かったかもしれませんね」

「えぇっ! そんな、せっかくきれいに保っていたのに!」

「「「「保ててないからな!」」」」

「そ、そんな~!」


 結局、ロタンは古文書と解読した書類を鞄に詰めたあと、カナタたちと共に登城することになったのだった。

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