第177話:大掃除
アルゼリオスに戻ってきたカナタたちは、一度ライルグッドたち別れた。
カナタとリッコはそのままロタンと行動を共にしており、彼女の家を掃除する予定になっている。
「……あの~? 本当によろしいんですか? 私は自分でも掃除を頑張れますけど?」
「大丈夫ですよ、ロタンさん」
「それに、最初に言ったけど私たちも急いでいるからねー」
「……わかりました、第一王子の命令ですもんねぇ~」
小さくため息をついたロタンだったが、それからは確認をすることはなくなった。
ただし、その背中は大きく丸まっており、カナタとリッコはどうしたのかと首を傾げてしまう。
そしてその答えは、家に到着してようやくわかることになった。
「……ここです」
「……えっと、マジですか?」
「……外にまでは溢れていないけどー……ゴミ屋敷ね」
「そ、そこまではいっていませんよ! まだ、ゴミ屋敷の一歩手前です!」
「「これはもうゴミ屋敷だよ!」」
「…………そ、そんなぁ~!」
門がある庭付きの一軒家。
立地は裕福層が暮らす区画からは離れているが、周囲の家と比べても十分大きな家といえるだろう。
しかし、その庭にはゴミが大量に積み重なっており、近づくと異臭が強くなっていく。
これを見てゴミ屋敷の一歩手前と口にしていたロタンが信じられないといった感じで、カナタたちはジト目を向けてしまう。
「うぅぅ~! だ、だから、人を呼びたくなかったんですよ~!」
「いや、私たちはまだいいんだけど……」
「あはは。確かに、殿下やアル様は呼べないな」
家の中だけの掃除だと思っていたのだが、それが庭にまで及んでいたのかと呆れてしまう。
とはいえ、古文書の内容をなるべく早く知りたいのも事実なので、二人は気合いを入れ直して腹をくくった。
「よーし! それじゃあ私は家の中からゴミを庭に放り投げるわね!」
「だったら俺はゴミの分別……あれ? 王都のゴミの処理ってどうなっているんだ?」
「……基本は、ひとまとめにして、専門業者を呼ぶんです」
「……なんでやらなかったんですか?」
「…………め、面倒だったから?」
「「……はぁ」」
話を聞くと、少ない量であれば個人で焼却することも可能なのだが、これだけの量を燃やすとなると煙が恐ろしいことになり、さらに異臭が周囲に広がる可能性もあるため難しくなっている。
そうなると、専門業者を呼んで全ての処理を頼むのが普通なのだが、それすらもロタンはしていなかった。
「そ、その、呼ぶんだったら一度に全てのゴミを処理したいじゃないですか? でも、そうなると家の中の研究資料も片付けないとまとめられないですよね? ……だからです!」
「「自信満々に言うんじゃないよ!」」
「ご、ごめんなさ~い!」
考古学者としては優秀なロタンだが、一人の人間としては片付けができないという欠点を持った人間でもあった。
「ちょっと待ってね。これ、順序立てて行動しないと、ものすごく時間が掛かるかもしれないわ」
「うぅぅ、本当にごめんなさ~い」
「……なあ、リッコ。ちょっといいか?」
リッコが苦い表情を浮かべながらそう口にしたところで、カナタは一つの提案を口にした。
「どうしたの、カナタ君?」
「俺もこんな提案をするのはどうかと思うんだが……このゴミ、魔法袋に入れちゃうのってダメなのか?」
「…………ええええぇぇええぇぇっ!! マ、魔法袋ですかああああぁぁああぁぁっ!?」
驚きの声をあげたのはロタンだった。
それもそうで、魔法袋はとても高価な代物だ。ただゴミが邪魔だからとゴミ袋代わりに使っていいものではない。
「……いやー、カナタ君。それはさすがに無理じゃないかな?」
そう考えているのはリッコも同じで、さすがに同意を得ることはできなかった。
「俺も普通じゃないって思うけどさぁ。今回は古文書の解読を最優先してもらうってことで、ダメか?」
「うーん……まあ、魔法袋を持っているのはカナタ君だし、私がどうこういうものじゃないけどさぁ」
「えぇっ!? カ、カナタさん、魔法袋を持っているんですか!!」
「はい。……いくつか」
「……ふえ?」
最終的には目が点になり、ロタンは何も言えなくなってしまった。
「そっか。ヴィンセント様から余り物の魔法袋を貰ったんだっけ。そっちに入れておこうか?」
「その方が早いからな」
「よし、そうしよう! もしも返してって言われたら、新しく作っちゃえばいいんだしね!」
「というわけで、ロタンさん。……あれ、ロタンさーん?」
「……魔法袋が、余ってる? それに、作っちゃえば、いい?」
あまりに驚愕な情報が一気に流れ込んできてしまい、ロタンの思考は完全に停止してしまった。
その後、ゴミを一掃したカナタたちは魔法袋ではどうしようもない汚れを洗い落としていき、ゴミ屋敷の大掃除を終わらせた。
ロタンには解読が終わり次第で連絡を入れるよう念を押し、カナタたちは屋敷をあとにした。
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