第175話:納品
ダンジョンを出たカナタたちを待っていたのは、心配そうに入り口の前を行ったり来たりしているロタンだった。
「あっ! 皆さん、ご無事でよかったです!」
カナタたちの姿を見つけると、ロタンは声をあげて駆け寄ってきた。
「一つ前の冒険者たちが出てきてから結構な時間が経過していたので、何かあったのではないかと心配だったんです!」
「そんなに時間が掛かったか?」
「ううん、そうでもないと思うけど」
「掛かっていたんです! だって、二時間ですよ! 一つ前の冒険者たちが出てきてから!」
「あぁ、そちらからの計算でしたか」
噛み合わないライルグッドとリッコとは違い、アルフォンスはロタンの言葉を受けて納得したように頷いた。
「どういうことですか、アルフォンス様?」
「ロタン様はこのダンジョンが一日で攻略されるとは思っていなかったのでしょう」
「当然じゃないですか! だって、ダンジョンですよ? 普通は何日も掛けて攻略する場所なんですから!」
「えっ? ダンジョンってそういう場所なんですか?」
「普通はそうです。……まあ、今回は戦力過多だったようですが」
「ど、どういうことですか! まさか、攻略したというんじゃないでしょうね!」
ロタンが心配と困惑とが入り交じった表情を浮かべながらそう口にする。
「これがダンジョンの最下層にあった古文書だ」
「いいえ、そんなことができるはずありません! だって、ダンジョンなんですから! ……えっ? い、今、なんて言いましたか?」
「だから、これがダンジョンの最下層にあった古文書だ」
「……ほ、本当に……攻略、したんですか?」
「あぁ。なんなら、ダンジョンボスの素材も見せてやろうか?」
ライルグッドが自らの魔法鞄から古文書を取り出すと、ロタンは目を丸くして何度もまばたきを繰り返した。
そして、しばらくすると――
「…………ええええぇぇええぇぇっ!! 本当なんですかああああぁぁああぁぁっ!?」
「だから何度も言っているだろう」
「きゃああああっ! すごい、すごいです! これがダンジョンから出てきた古文書なんですね! うわー、興奮するなー! な、中を見てもいいんですか!」
「これはそちらに渡すものだろうが」
「はっ! そうでした、そういう依頼でしたね! うわー、嬉しいなー! ぐふ、ぐふふっ!」
興奮し切りのロタンが最終的には変な笑い声を漏らしたことで、カナタたちは軽く引いてしまう。
それでもロタンは気にすることなく、受け取った古文書を大事そうに眺めながら、破損しないよう優しく頬ずりまで始めてしまった。
「……ね、ねぇ、ライル様? この人、本当に大丈夫なの?」
「……わからん。これならばそのまま買い取って、別の考古学者に解読を依頼した方が――」
「これは絶対に渡しませんよ! いくら詰まれたとて売るつもりもありませんからね!」
聞こえていたのかとライルグッドは顔を引きつらせるが、そこへ真顔のアルフォンスがスッと前に出た。
「な、なんですか? これは私が冒険者ギルドに依頼したものです! 達成したのは皆さんですが、依頼を破るようなことはしないでください!」
「えぇ、もちろんです。今度は私たちがロタン様に依頼をしたいのです」
「……わ、私に、依頼ですか? ……まあ、内容にもよりますけど?」
警戒するように古文書を胸に抱きながら、ロタンは恐る恐る口にした。
「ありがとうございます。私たちは、その古文書の内容について知りたいのです」
アルフォンスの言う通り、カナタたちが欲しいのは古文書ではなく、解読された古文書の内容である。
これが勇者の剣に関するものでなければ不要だし、勇者の剣について記されていればその内容のみを知りたいのだ。
「で、ですが、これが歴史的に価値のあるものだとしたら、口外するのは……」
「私たちは口外するつもりはありません。ただ、勇者の剣についての情報があれば教えていただきたいのです」
「……勇者の剣、ですか?」
「その通りだ」
二人がやり取りする中で、最後にライルグッドが声を張り上げながら前に出た。
「……えっと、あなたはどこかの貴族様でしょうか?」
「俺はライルグッド・アールウェイ。アールウェイ王国の第一王子だ」
「へぇー、第一王子様ですかー。……ん? えっ、あっ、はい?」
最初こそ貴族には従わないぞと言わんばかりの態度だったが、相手が貴族ではなく王族だと知ると、最終的に――
「…………ぎゃああああああああぁぁああぁぁっ!?」
悲鳴にも似た声をあげたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます