第173話:ダンジョン攻略③

 ダンジョンの最下層。

 そこにあるのはダンジョンボスと呼ばれる魔獣であり、ダンジョンボスだけは一度倒すと二度と現れることはない。

 言ってみれば唯一無二の存在だと言えなくもないが、そもそも魔獣がどこから現れているのかも確実なことは解明されていないので、人によってはどちらでもいいと口にする者も多い。

 似た感覚を持っている者は冒険者にも多く、それはリッコも同じだった。

 そして、カナタたちはそのダンジョンボスが待ち受けるフロアにつながる扉の前に到着していた。


「……で、でかいなぁ」

「これがダンジョンの最下層、ダンジョンボスが待つフロアへつながる扉だ」

「久しぶりに見たわねー」

「私も久しぶりですね」

「わ、私は初めてっす!」


 経験のないカナタとリタは目を見開いて巨大な扉を眺めていたが、経験済みのリッコたち三人は慣れた様子で戦闘準備を整えていく。


「リッコ。中に入ったらすぐ戦闘になるのか?」

「おそらくね。でも、そこまで階層が深いダンジョンではなかったから、そこまで強い魔獣は出てこないと思うわ」

「そうだな。クイーンアントよりは強く、キングアントより弱い、くらいだろうか」

「でしたら私の出番はないかもしれませんね。……私もフリジッドの試し切りをしてみたかったのですが」

「……ク、クイーンアントに、キングアントっすかぁ」


 新人国家魔導士であるリタからするとクイーンアントですら強敵なのだが、リッコたちはすでに討伐経験を持っている。

 キングアントに関してはアルフォンスだけなのだが、それでも今のリッコやライルグッドであれば、苦戦はするだろうが討伐することはできるはずだ。

 それだけ、アクアコネクトとシルバーワンの性能は桁違いだった。


「そういえば、アル様はほとんど何もしていませんでしたね」

「おっと、張り切り過ぎたか」

「いえ、脇から飛び出してきた魔獣を切りはしていたのですが、どうも手応えがなさ過ぎて……ですが、私のことはお気になさらず」


 アルフォンスが遠慮しようとしていたが、二人は顔を見合わせると一つ頷いた。


「ここはアルに任せるか」

「そうね!」

「……よろしいのですか?」

「「えっ? 一人にやらせるの?」」


 リッコとライルグッドの提案を耳にしたカナタとリタは驚きの声をあげた。

 しかし、アルフォンスは全く問題なさそうに、いいのかと確認を口にしただけだ。


「なんだカナタ、忘れたのか?」

「アル様って、単身でキングアントを仕留めた人なのよ?」

「……あー、そうだったな」

「それも、フリジッドではない剣でですからね。これがあれば、このダンジョンのボス程度なら問題にはならないでしょう」

「……あれ? 私の常識が非常識だったっすか? ダンジョンボスって、もっと凶暴で凶悪で、警戒第一と言われているはずだったっすけど?」


 アルフォンスの実力にカナタが納得を示すと、リタだけがこの状況を理解するのに苦しんでいた。


「では、そうと決まれば早速中へ入りましょう」

「瞬殺を期待しておこう、アル」

「殿下の期待に応えられるよう、全力を尽くしましょう」


 そう口にしたアルフォンスが扉に手を掛けると、巨大な扉がギギギと音を立てながら独りでに動き出す。

 地面に積もっていた埃が舞い上がり、カナタは少しだけ咳き込んでしまうが、それも一瞬のことで、中から放たれた殺気をその身に受けると全身から汗が噴き出してきた。


「カナタ君」

「リタ」

「……すまん、リッコ」

「……も、申し訳ございません、ライル様」


 殺気に当てられたのはカナタだけではなかった。

 最年少で国家魔導士の資格を得た英才のリタであっても、始めて訪れたダンジョン、そこのボスを目の前にして緊張しており、その糸が殺気を受けたことでプツリと切れてしまったのだ。


「構わん。最初で殺気に当てられて吐かなかっただけでも、良い方だからな」

「そうそう。冒険者仲間の大半は経験済みだから、リタちゃんは優秀だよ」

「……ありがとう、ございます」

「……俺は?」

「カナタ君は職人なのに色々と経験しちゃってるから、これくらいで吐くとかないでしょう」

「それもそうだな」


 どうにも自分の扱いが雑にいなっていると感じてしまうカナタだったが、褒め言葉として受け止めようと言い聞かせた。


「……ジェネラルリザードマンですか」

『フシュルララアアァァ』


 殺気が放たれ続けている中、先頭で歩みを止めていなかったアルフォンスがダンジョンボスの姿を視認してボソリと口にした。


「……ザコ、ですね」

『ジュララッ! ブジュルララアアアアァァッ!!』


 言葉の意味が理解できたのか、アルフォンスの呟きのあとから大咆哮をあげたジェネラルリザードマンだったが――すでに勝負は決していた。


「アイスニードル」

『アアアアァァアア――アビビュビャッ!?』


 細く伸ばしたアルフォンスの魔力は地面を伝い、ジェネラルリザードマンの足元で一気に魔法へと昇華した。

 地面から飛び出した氷の槍がジェネラルリザードマンの体を貫くと、一瞬にして氷像が完成してしまう。

 そこまでゆっくりとした足取りで進んで行くと、アルフォンスはフリジッドを一閃して両断した。


「……終わりましたよ、皆様」


 あまりの圧勝劇に、カナタとリタだけではなく、リッコとライルグッドも表情を引きつらせていた。

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