第172話:ダンジョン攻略②

 リッコとライルグッドは言葉通り、魔獣を狩った数を競うように、嬉々として剣を振り抜いていく。

 アクアコネクトを手にしたリッコは加速と減速を繰り返しながら魔獣の意表をついて攻撃を仕掛け、ライルグッドはシルバーワンの性能を活かした力押しだ。

 技量でいえばリッコの方が上なのだが、三等級のアクアコネクトとは違いシルバーワンは一等級だ。

 下層に突入したところでリッコは二回以上の攻撃を加えて倒している魔獣を、ライルグッドは一撃で仕留めてしまう。

 結果として、討伐数を競う二人の戦いはライルグッドに軍配が上がった。


「ぐぬぬぬぬっ! 悔しいいいいぃぃっ!!」

「当然の結果だな!」


 悔しそうにライルグッドを睨みつけているリッコだが、負けた原因を武器のせいにすることはなかった。


「次こそは絶対に勝ってやるわ!」

「いつでも勝負になってやる!」

「いいえ、殿下。毎回のように勝負を受けてしまっては、時間が足りません」

「リッコもライル様に面倒を掛けるなよ」

「「……すみませんでした」」

「……一番強いのって、アルフォンス様とカナタ様っすかねぇ?」


 少し離れたところから呟いたリタの言葉は誰の耳にも届かず、静かにダンジョンの中に吹く風にさらわれていった。


「気を取り直しましょう。お二人がやる気を出して魔獣狩りをしてくれたおかげで、我々は最下層まで到着しました」

「意外と早かったなー」

「……私、何もやることがなかったっす」


 アルフォンスの言葉通り、カナタたちは気づけば最下層に到着してしまっていた。

 カナタの感想はその通りで、最後まで残っていた冒険者パーティであっても、普通であれば今回掛かった倍以上の時間を要していたことだろう。

 カナタたちが規格外の時間で最下層に到着できたのは、等級の高い装備を手にすることができたからであり、容量無限の魔法鞄を持っていたからに他ならない。

 言ってしまえば全てカナタのおかげでもあった。


「大丈夫だ、リタ。俺だって何もしていないから」

「途中から魔獣を魔法鞄に放り投げる仕事をしていたっすからねぇ。……というか、その魔法鞄、容量はどれくらいなんすか? 結構な数の魔獣を入れたっすけど、まだ一杯にならないんすか?」


 リタの疑問も当然だ、下層に入ってからは魔獣の素材も貴重だとカナタが一つの鞄を取り出した。

 それが魔法鞄だと知ると驚いたリタだったが、ライルグッドと行動を共にしているのなら魔法鞄の一つくらいは持っているのかと自分を納得させていたのだが、魔獣を放り投げていくにつれてその容量がどれくらいなのか気になってしまったのだ。


「あー……えっとー……ラ、ライル様ー?」

「どうしたんすか?」


 容量無限と事実を伝えていいものか、カナタは判断がつかずにライルグッドに確認を取る。


「ん? カナタの魔法鞄は時間経過を止めることができる、容量無限の魔法鞄だな」

「へぇー! 時間経過を止める保存特化なんすねー。それに容量無限っすかー。……ん? 容量……無限?」

「そうだ。なんだ、カナタ。ちゃんと言っていなかったのか?」

「いや、ちゃんと言っていいのかを確認するために呼んだんですけど?」

「そうなのか? ……まあ、いいんじゃないか? リタ、他言無用で頼むぞ」

「…………は、はいっす」


 自分が耳にした内容は本当なのか、聞き間違いではないのか、そんな自問自答をリタは繰り返しながら、心ここにあらずの状態で返事をしていた。

 そして、最終的にはカナタへ視線が向くと、自分だけが全く役に立っていないことに気づいて大きく肩を落としてしまった。


「……私、いらない子っすねぇ」

「そ、そんなことないから! もっと魔獣をかき集めて素材にしようぜ!」

「……回復役なんて、いらないっすよねぇ」

「回復役が活躍している状況は危機的状況ですからね。活躍する場が少ないのは良いことではないですか、リタ」


 落ち込むリタを見かねてアルフォンスが声を掛けると、涙目で顔を上げると何度も大きく頷いた。


「あ、ありがとうございますっす! 私、活躍はないけど頑張るっす! 魔獣の回収係として!」


 それでいいのかと思わなくもないが、リタが元気になった姿を見たカナタは何も言えないのだった。

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