第170話:初めてのダンジョン
待ち合わせ場所には大量の馬車が用意されており、パーティごとに定員を割り振りながら乗り込んでいく。
カナタたちは五人パーティとなり、別の五人パーティと同乗することになった。
ライルグッドの正体がバレたら大変だとカナタやリタは考えていたものの、当の本人や護衛を務めるアルフォンスは特に心配はしておらず、リッコに至っては普通に話しかけていた。
「ねえ、ライル様。ダンジョンには行ったこととかあるの?」
「何度かな。だが、護衛が多すぎて俺は何もできなかったがな」
「それじゃあアル様は?」
「私はその護衛でしたので、ある程度は魔獣とも戦いましたね」
ハラハラしながら三人の会話を聞いていた二人だったが、同乗の冒険者パーティは他人に興味がないのか、お互いに真逆の場所に腰掛けてからは一度も目が合うこともなかった。
「……だ、大丈夫そうだな」
「……はいっす。というか、でん……じゃなくて、ライル様たちはどうして普通に会話をしているんすか?」
本来であれば殿下と呼ぶべき立場だが、誰の耳があるのかもわからないということで全員がライルと呼ぶことになった。
最初こそ抵抗はあったものの、カナタは徐々に慣れ始めている。
しかし、国に仕えているリタはまだ慣れないようで、時折殿下と口にしてしまいそうになっていた。
「……城の中だと息が詰まるから、外の方が楽しいんじゃないか?」
「……そんなものっすか?」
「うーん……わからん。まあ、立場はまったく違うけど、俺も家では息が詰まる思いばかりだったからな。気持ちはわかるかも」
カナタは自分の中でリタを常識人だと位置付け、これからしばらくは苦労を共にしてくれると考えていた。
だからかもしれないが、馬車に揺られている間だけで世間話ができるくらいの仲になっていた。
『――皆さーん! 着きましたよー!』
すると、外から御者の声が聞こえてきた。
先に別のパーティが外に出て、そのあとにカナタたちが馬車を降りる。
場所は森の中なのだが、結構奥まったところなのか周囲には数多くの大木が空高く伸びており、陽の光のほとんどを遮っている。
拠点を作るためなのか、馬車が停まっているところは更地になっているものの、他の場所は雑草も生い茂り、岩には苔がこびり付いているところまであった。
「お待ちしておりました、冒険者の皆様!」
周囲に視線を向けていたカナタだったが、人だかりの奥から声が聞こえてきたので慌ててそちらに移動する。
「私が今回の依頼人でもある、考古学者のロタンと申します! 今回は新しく発見されたダンジョンの、事前調査の結果をお伝えさせていただきます!」
ロタンと名乗ったメガネの年若い男性は、言葉通りに事前調査の情報を口にしていく。
周囲の状況、ダンジョンの入り口の造形、調査団が遭遇した魔獣の種類、それらから過去のダンジョンを比較し、学術的に価値の高いアイテムが安置されている可能性が高いとのこと。
集まった冒険者の中にはがっかりしたような雰囲気を隠さない者もいたのだが、だからといって依頼を放棄するわけにはいかず、とりあえずは調査に参加する意思を示していた。
「学術的に価値のあるアイテムに関しては私たちが回収させていただきますが、それ以外のアイテムに関しては発見者が自由にしていただいて構いません! 学術的に価値の高いアイテムが安置されている可能性が高いですが、ここは紛れもなくダンジョンです! 皆さん、どうかよろしくお願いいたします!」
最後に冒険者たちを煽るような言葉で締めくくると、彼らはぞろぞろとダンジョンの中へ入っていく。
その姿を最後尾から眺めていたカナタたちは、探索をどのように進めるかを話し合っていた。
「前衛は俺とリッコ、中衛にアル、カナタとリタは後衛を頼む」
「でん……ラ、ライル様が前衛をなさるんすか?」
驚きの声をあげたのはリタである。
ただし、リタ以外はライルグッドが好戦的であることを十二分に把握しているので、誰からも異論は口にされなかった。
「まあ、ライル様だからねー」
「本当であればお止めする立場なのですが、今回は仕方がありませんね」
「気をつけてくださいね、ライル様」
「問題ない。今回はこいつの初舞台になるのだからな」
ニヤリと笑いながらそう口にすると、ライルグッドは腰に提げたシルバーワンの鞘を軽く叩いた。
「それじゃあ、行くとするか!」
「なんだかリーダーがライル様みたいなんだけどー?」
「いいんじゃないのか? ライル様ならリーダーっぽいし」
「異論ありません」
「わ、私も大丈夫っす! よろしくお願いしますっす」
それぞれの役割が決まったところで、最後にカナタたちがダンジョンに足を踏み入れた。
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