第169話:国家魔導士
翌朝、カナタたちは城の門の前で朝の六時に待ち合わせとなった。
国家魔導士とはそこで初顔合わせとなるのだが、どのような人物がやってくるのかと、カナタは内心ドキドキしていた。
「あっ! 来たみたいだぞ、リッコ!」
「本当だ! でも……あれ? 国家魔導士の人、女性じゃない?」
「マジで? ダンジョンに行くんだぞ?」
「あら、女性がダンジョンに入ったらダメだとでも言いたいの?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
カナタはてっきりアルフォンスのようにライルグッドと親交のある男性が同行するものと勝手に思い込んでいた。
だからこそ、歳も二人から離れて、むしろこちらに近いだろう若い女性が同行してくるとは考えてもいなかったのだ。
「時間通りだな」
「お待たせいたしました。それと、こちらの方が同行する回復役の国家魔導士です」
「お、おはようございますっす! 私、リタ・アルバスタと申しますっす! 以後、お見知り置きをっす!」
緑髪を揺らして勢いよく頭を下げてきたボブカットの女性は、カチコチに固まった体で挨拶をしてくれた。
同行する相手が仕える国の第一王子なのだから緊張するのは当然だが、それにしても固すぎる気もする。
「俺はカナタ。よろしく」
「私はリッコ・ワーグスタッドよ。よろしくね、リタちゃん」
「は、はいっす!」
「彼女は最年少で国家魔導士の資格を得た英才なので、魔導士長から推薦されました」
「回復魔法にも優れていると聞いているし、期待しているぞ」
「は、はひっす! ご期待に応えられるよう、頑張りますっしゅ!」
最後の最後も噛んでしまい、リタは顔を真っ赤にしながら俯いてしまった。
「もう! ライル様のせいですよ!」
「俺は何もしていないだろうが!」
「緊張させるのが悪いんですよ!」
「だから俺は何もしていないと言っているだろうが!」
しかし、ライルグッドを相手に文句を口にしているリッコを見て、リタは何が起きているのかと顔を上げ、口を開けたままキョトンとしてしまう。
その横にそっと近づいていったカナタが優しく声を掛けた。
「賑やかだろう?」
「えっ? あ、はいっす」
「相手は殿下や貴族だけど、何故かこんな感じなんだよね。だからさ、すぐには難しいかもしれないけど、少しずつ緊張を解いていってもいいと思うぜ」
カナタにそう言われたからか、リタは再び視線をリッコとライルグッドに向けた。
しばらく二人のやり取りを眺めたあとに出てきた言葉は――
「……ぜ、善処するっす!」
「あはは、だよねー」
さらに緊張が伝わる声音で返事を返され、カナタもこればっかりは仕方がないと苦笑いを浮かべた。
アルフォンスだけは二組のやり取りを眺めながら柔和な笑みを浮かべており、これはこれでバランスが取れそうだと内心で思っていたのだった。
東門に向かいながら簡単な自己紹介を行うと、どうやらリタが神童と呼ばれる類いの人物だということが判明した。
「ち、違うっす! 私はそんなすごい人間じゃないっす!」
本人はそう口にしているが、国家魔導師たちからは期待の眼差しを向けられているらしい。
今回の同行もリタの株を上げるため、わざわざ魔導師長の推薦という形で選ばれている。
年齢の近い魔導師たちからは羨ましそうに見られてしまったが、それもリタがここに至るまでに努力した結果なので、誰も大きな声で文句を口にすることはなかった。
「わ、私よりも実力のある先輩たちは大勢いるっす! だから、私は国家魔導師の名に恥じない働きをするだけっす!」
「いい心掛けじゃないのか? 少なくとも、実力を過信していないのはいいことだ」
「少しだけ謙遜が過ぎるかとは思いますけどね」
「が、頑張りますっす!」
リタが鼻息荒くそう口にしたタイミングで、カナタたちは東門へ時間通りに到着した。
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