第168話:ダンジョン探索

「――みんな! ダンジョンに行こう!」

「「「……は?」」」


 突然の提案にカナタたちは困惑顔を浮かべる。

 そこでリッコは冒険者ギルドで剥がしてきた依頼票をテーブルの上に叩きつけた。


「これよ!」

「……いや、ちゃんと口で説明しろよ」

「これを読めばわかるわ!」

「……お前、説明するのが面倒なんだろう?」

「だから読めばわかる!」

「……ふう。では、私が」

「さすがはアル様ね!」

「「「……はぁ」」」


 そこからアルフォンスが読み上げた内容は、リッコが口にした通りダンジョン探索に関するものだった。


「ふむ……これは、新しく発見されたダンジョンですね?」

「そうなのよ! 複数パーティでの探索なんだけど、私たちなら単独でもいけると思わない?」

「……ん? おい、それは俺たちも一緒にということなのか?」

「えっ? 行かないの、ダンジョン?」


 リッコとしては今までと同様に四人で行くつもりだったが、彼女は長く一緒にいたせいですっかり忘れていた。


「……俺、第一王子なんだが?」

「うん、だから?」

「…………そんなヒョイヒョイと城を出られるわけがないだろうが!」

「えっ、そうなの?」

「当然だろう! 行きたい気持ちはあるが……いや、気持ちがあっても行けるわけじゃないんだよ!」


 悔しそうにそう口にしたライルグッドを見て、リッコは苦笑を浮かべる。


「なんだ、行きたいんじゃないのよ」

「うぐっ!? ……だ、だから、そう簡単に行けるわけじゃ――」

「いや、行けると思いますよ、殿下」

「……そ、そうなのか?」

「はい。少々お待ちいただけますか?」


 何やら思案顔で部屋を出ていったアルフォンスを見送ると、三人は顔を見合わせてから首を傾げた。


 ――しばらくして戻ってきたアルフォンスの第一声。


「陛下からの許可はいただいて参りました」

「「「へ、陛下!?」」」

「はい。出発は明日ですので準備いたしましょうか、殿下」

「あっ、いや、ちょっと、アル?」

「さあ、さあ、さあ!」

「お、おう、わかったから、落ち着けって!」


 何故かライルグッドよりもやる気になっているアルフォンスを見て、カナタとリッコは完全に置いてきぼりをくらっている。


「あぁ、それとリッコ様」

「は、はい!」

「陛下より、回復役が必要になるだろうからと、国家魔導師の同行が必須と条件をいただいております。そちらは私の方で見繕いますがよろしいですか?」

「もちろんです!」


 リッコが即答すると、アルフォンスは軽く会釈をしてから、ライルグッドと共に部屋をあとにした。

 残されたカナタは何度もまばたきを繰り返すと、視線をゆっくりとリッコへ向けた。


「……何がどうなっているんだ?」

「まあ、許可が出たんだから気にしない!」

「いや、気になるだろ! ってか、なんでいきなりダンジョン探索なんだよ!」

「だってー、暇だったしー? それに、ダンジョンって勇者関連のアイテムが手に入ることもあるのよ?」


 リッコの最後の言葉にカナタは文句を言う口がピタリと止まってしまった。


「……それ、本当なのか?」

「そうよー。だからアル様も陛下に話を持っていったんじゃないかしら」


 リッコの推測は正しかった。

 ダンジョンがどういう経緯で構築され、何故勇者関連のアイテムが出土するのかなどの詳しいことはわかっていない。

 しかし、勇者関連のアイテムが多く出土していることに間違いはなかった。

 そのことを知っていたアルフォンスが陛下へ話を通し、勇者の剣に関する情報を得るためだと説得したのだ。


「まあ、出てこないこともあるからわからないけど、ここでただ本とにらめっこしているよりかは、可能性は高いんじゃないかなー」

「……今までの苦労はなんだったんだよ」

「それはそれ、これはこれよねー」

「……なあ、リッコ。そのダンジョン探索、俺も行くのか?」


 錬金鍛冶師の自分が行く意味があるのかと疑問を覚えたカナタだったが、リッコは当然のように即答した。


「もちろん!」

「……だよなぁ~。俺、生きていられるかなぁ~」

「大丈夫だって! 回復役の国家魔導師も付けてくれるのよ?」

「怪我する前提が嫌なんだけど?」

「それなら、アル様直伝の剣術で怪我をしないように頑張りなさい!」


 こうして、カナタもダンジョン探索の準備をする羽目になったのだった。

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