第167話:王都の冒険者ギルド
「――もう限界だわ!」
そう声をあげながらリッコが机を叩いた。
「……ど、どうしたんだ、リッコ?」
「これ以上、私は無理! もう文字を見たくないわ!」
文献を読み漁り始めてからすでに一週間が経過している。
その間、勇者の剣についての情報はまったく発見されておらず、カナタたちの苦労は報われない日々が続いていた。
「もう少し忍耐を持って取り組んだらどうだ、リッコ?」
「そうはいいますけどね、ライル様!」
「……お前、ついには俺まで愛称で呼ぶようになったのか」
「いけない?」
「……はぁ。おい、カナタ。本当にいいのか? お前たち、恋人同士だろう?」
「あはは。まあ、リッコが楽ならそれでいいかなと」
友人同士でも愛称で呼び合うことはあるだろうと思っているカナタとしては、異性が愛称で呼び合うのも普通だと考えている。
しかし、王族貴族では早々納得できるものではなく、壁は高いものの超えた瞬間から簡単に愛称呼びを許したアルフォンスが珍しい。
カナタも元は貴族だが、貴族らしい生活を送ることができなかったので考え方がライルグッドとは異なっていた。
「俺はカナタがいいと言うなら構わないが……はぁ。なんというか、俺の周りには少し変な奴しか集まらないのか?」
「それを殿下がライル様が言いますか?」
「……さすがに怒っていいか?」
「ダメです! というか、私は本当に限界です! なので、息抜きしてきますね!」
「えぇっ!? ちょっと、リッコ!!」
ガタッと音を立てて椅子から立ち上がったリッコは、一人でスタスタと扉の方へ歩き出してしまう。
カナタの呼び掛けにも答えず、扉を開けるとようやく振り返った。
「ちょっと冒険者ギルドまで行ってくるから、調査は任せたわね」
「いやいや、ダメだろリッコ!」
「お前、これは王命なんだが?」
「私もさすがにダメではないかと」
「息が詰まっている状態じゃあしっかりとした調査なんてできないわよ。今日だけだから許してちょうだいね!」
そう口にすると、リッコはさっさと部屋を出ていってしまった。
◆◇◆◇
すでに顔見知りになっていたリッコは、門番に会釈をしながら門を潜り城下町へ出ると、その足で目的地の冒険者ギルドへ到着した。
スライナーダのギルドビルとは違い、アルゼリオスでは各ギルドが別々の場所に居を構えている。
これが普通なので当然といえば当然なのだが、リッコからすると違和感を覚える状況だった。
「何度見ても不便なのよねぇ」
そんな愚痴が飛び出す中、リッコは依頼票が張り出されている掲示板に目を向けている。
すると、一つの依頼票に目が止まり引き剥がした。
「これ……へぇ、面白そうじゃないのよ!」
内容を確かめたリッコは意気揚々と窓口まで向かう。
「これを受けさせてください!」
「確認いたしますね。……こちら、記載されている通り複数パーティによる合同探索になるのですが構いませんか?」
「大丈夫よ!」
「それではギルドカードを提示してください」
受付嬢の案内に従ってギルドカードを取り出したリッコ。
そこで相手がAランク冒険者だとようやく気づいた受付嬢は目を見開いていたが、リッコ本人はまったく気にしていなかった。
「失礼いたしました、リッコ様」
「何が? いつものことじゃないのよ」
「あっ、はい。そうですね」
「……?」
いったいなんのやり取りだったのかと疑問を覚えながらも、リッコは手続きが進んでいるのを確認するとそれ以上は特に言及することはしなかった。
「リッコ様はパーティでのご参加ですか?」
「パーティ? ……あー、うん、そうなるかな」
「わかりました。それでは、出発は明朝七時で集合場所は東門となります。遅れますと馬車は出発してしまいますのでお気をつけください」
「わかった。ありがとね、お姉さん」
「えっ? その、どういたしまして?」
手続きを終えたリッコはウキウキした気持ちで冒険者ギルドをあとにした。
見送った受付嬢は首を傾げながらも、次の冒険者の対応に追われるのだった。
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