第166話:文献を読み漁る

 カナタたちはライアンが用意した部屋にやって来ている。

 勇者の剣について記された資料を用意していると言われていたのだが、そこにあった資料には必要だと思われる情報が何一つとして記されていなかった。


「だあぁぁ~! ……疲れた」

「ねぇ、カナタく~ん。まったく収穫がないんだけど~」


 机に突っ伏したカナタとリッコが口を開くと、そんな言葉が聞こえてきた。


「もう少しシャキッとしたらどうだ、二人とも」

「ですが殿下、これだけ情報がないともいうのもいかがなものかと」


 なんとか背筋を伸ばして資料を手にしていたライルグッドが呆れ声を漏らすが、アルフォンスからも情報のなさへの言及が口を突いて出てくる。


「まあ、確かにな。ここまで何も情報がないとは、さすがに俺も思っていなかった」

「陛下からは何か情報はないんですか?」

「……ない。おそらく、これで全てだな」

「えぇ~? そうなると、まったく情報のない状態からカナタ君は勇者の剣を作らないといけないんですか~?」

「うぐっ! ……だ、だからこうして必死に文献を読み解いているのだろう!」

「そうなんですけどね~」


 ライルグッドの言葉にリッコも納得はしているものの、最終的にはやはり情報がなさ過ぎて愚痴の一つも言いたくなる気持ちなのだ。


「一度休憩にしましょうか、皆さん」

「いいですね、アル様!」

「そうだな。このまま続けていても、効率が悪くなりそうだ」

「ありがとうございます」


 全員が頷いたことで、アルフォンスが一度席を外した。

 しばらくして戻ってくると、お茶やお菓子を運んできたメイドも一緒にいる。

 部屋のテーブルには資料が山ほど詰まれているので、わざわざ別のテーブルまで準備してもらい並べてもらった。


「それではいただきましょうか」


 アルフォンスがそう口にすると、メイドたちはペコリと一礼してから下がっていった。


「いっただっきまーす!」

「……美味しいですね!」

「城の料理人は最高の腕を備えておりますからね」

「というかリッコよ。お前、本当にアルフォンスのことをアルと呼ぶのだな」


 アルフォンスのことをアルと呼ぶのはライルグッドと陛下であるライアン、そしてアルフォンスの家族くらいなものだ。

 そこにリッコが入ってしまってもいいのかと思うカナタだったが、アルフォンスはまったく気にしていなかった。


「構いません。どのような呼ばれ方であろうとも、私は私ですから」

「そうは言ってもなあ、アル。お前、過去にそう呼んできた女性たちに殺気を振りまいたことを忘れたのか?」

「えぇっ!! ……そうなんですか、アル様? いや、アルフォンス様?」

「ゴホン! ……まあ、過去にはそういうこともありましたが、あれは関係を築けていない者たちだったではありませんか」

「だからといって女性に殺気はないだろう、殺気は」

「何度止めてほしいと口にしても止めなかったのがいけないのです、殿下」


 どうやらアルフォンスは女性関係で色々と苦労をしていたようだ。

 確かに、アルフォンスは男性のカナタから見ても美形であり、紳士的な態度で誰からも好かれる相手でもある。

 それが異性から見れば非常に魅力的に見えるのだろう。

 しかし、だからこそ言い寄ってくる相手は多いだろうし、アルフォンスの意思を無視して近づいてくる者もいるはずだ。


「リッコ様もそうですが、カナタ様も私にとってはすでに背中を任せられる仲間であり、友でございます。もしよろしければ、カナタ様もアルと呼んでいただいて構いませんよ?」

「あー……いいえ、俺はアルフォンス様とお呼びしますよ」

「おや? どうしてですか?」

「俺は平民ですからね。しっかりと立場は弁えないと」

「そういうところが、カナタ様の美徳でございますね」


 アルフォンスはそう口にすると、柔和な笑みを浮かべた。


「えぇー? それじゃあ私はどうなるんですかー?」

「リッコは止めておいた方がいいんじゃないか? 美徳がどこにもないだろう」

「……あぁん?」

「……そういうところだぞ」


 そして、リッコは相手が第一王子であると理解しているのか、ライルグッドに対して睨みを利かせている。

 とはいえ、それを許しているライルグッドの度量の広さに助けられている部分はあるだろう。

 カナタは城の中でも変わらない態度を見せるリッコに毎度冷や冷やさせられているが、それもここ最近ではようやく見慣れてきたところでもあった。

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