第161話:新たな展開

「では、次の話じゃが……どちらかといえば、こちらが本題であるな」


 僅かに居住まいを正したライアンを見て、カナタも自然と姿勢を直してしまう。

 カナタの聞く態勢が整ったと見たのか、ライアンはゆっくりとその口を開いた。


「現在フリックス準男爵が統治している、元ブレイド伯爵領についてだ」


 自らが管理している領地の名前が出たことでヴィンセントは僅かに体を震わせる。

 しかし、何か発言をするということはなく、ただ無言で次の言葉を待っていた。


「その領地を、ゆくゆくはカナタに継いでもらいたいと思っている」

「……えっ……ええええぇぇええぇぇっ!?」


 驚きの声をあげたカナタだったが、不思議なことに彼以外の面々は納得したかのように何度も頷いている。


「へ、陛下! それはさすがに無理がございます!」

「何故だ? あのような奴ではあったがヤールス・ブレイドの下で領地経営について多少は学んでいるだろう?」

「……いいえ、俺は五男でしたし、かじる程度でしか学んでおりません。それもほぼ独学ですし、学んだと言えるほどのものはありません」


 カナタの言葉は事実だった。

 五男だから、そして鍛冶の腕が悪いからと冷遇されていたカナタは領地経営についてもほとんど教えられていない。

 教えられたのは鍛冶の腕前がわかる前、それも子供だった頃に軽く会話の中で聞いた程度だ。

 個人的に興味を持って領地経営の本を読んだことはあったが、それも数が少なくほとんど学んだとは言えないようなものだった。


「ふむ、そうか。五男とはいえ、領地を支えてもらうためには教えておくのが上級貴族の役目のはずなんだがなぁ」

「そ、そこはもう、父上が鉱山に行っているので聞きようがないかと……」

「ん? あぁ、すまないな。カナタのことを責めているわけではないのだぞ?」


 初めて顔を合わせた時と同じような迫力を滲ませていたライアンに顔を引きつらせていたカナタを見て、彼は申し訳なさそうに謝罪を口にした。


「そんな! 陛下が謝るようなことでは!」

「父上、誰か補佐を付けるのはどうだろうか? カナタは錬金鍛冶をメインで動いてもらう必要があるのだから、領地経営に時間を取られるのはマイナスになるだろう」

「まあ、確かになぁ。我のところから誰かを派遣するか?」

「あの、陛下? 殿下? そのままヴィンセント様に領地運営してもらうのが一番だと思うんですが?」


 何故かカナタが引き継ぎことを決定事項で話が進んでいるので、領地を剥奪されることになるヴィンセントのことを見ていない。

 カナタとしてはそんな彼の様子が気になってしまうものの、そちらに視線を向けられない状況になっていた。


「……陛下、発言をよろしいでしょうか?」


 そして、カナタが恐れていた状況でヴィンセントが口を開いた。


「よいぞ、フリックス準男爵」

「ありがとうございます。カナタ様の領地経営についてですが……」


 ヴィンセントがどのような言葉を発するのか、カナタはゴクリと唾を飲み込みながら耳を澄ませた。


「……殿下が仰っていたその補佐に、私を遣わせていただけませんでしょうか?」

「……えっ?」


 ヴィンセントの発言を聞いて、カナタの口からは思わず驚きの声が漏れた。


「ほほう。よいのか、フリックス準男爵よ?」

「もちろんでございます、陛下。私は爵位を賜りましたが、それをお返ししてでもカナタ様の下につきたいと考えております」

「ちょっと待ってください! ヴィンセント様、それはダメですよ!」


 恐ろしい提案まで口にし始めたヴィンセントを止めるためにカナタが間に入ったが、それでもヴィンセントは言葉を止めなかった。


「いいえ、構いません。それに、賢者の石の錬金術を手伝ってもらった時点で、私はカナタ様の下で働きたいと思っていたのです」

「で、ですが、今ヴィンセント様と共に働いている方々はどうなさるのですか?」

「一緒に召し抱えていただければ幸いです。そうしていただければ、カナタ様が難儀をすることなく領地経営を行うこともできますからね」


 ニコリと笑いながらそう口にしたヴィンセントを見て、カナタは展開があまりにも早すぎて混乱してしまう。


「あっ! だったらさあ、ヴィンセント様。私は将来的にカナタ君の妻になるわけだし、私も一緒に支えていけるわよ?」

「おぉっ! それは助かります。カナタ様の妻であるリッコ様が前に立っていただければ、私が統治していると勘違いされることもないでしょう!」

「それに私はお父様の下で領地経営についてしっかりと学んでいるし、ちゃんと働けるわよ?」

「そちらの方が助かります!」

「……あのー、俺の意見はどうなるんでしょうかー?」


 なんとなく答えはわかっていたが、それでも問い掛けずにはいられなかった。


「何を言っているのですか?」

「そうよ、カナタ君」

「これはカナタに対する褒美でもあり――王命ぞ?」


 最終的にはライアンの一言が決め手となり、カナタは渋々頷くしかできなかった。



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 まだ話数は短いので、お時間ある方はぜひ読んでみてください!

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