第159話:驚きと確信と
(……それにしても、これはいったいどういうことだ? とても手に馴染み、昔からの剣を握っているようだ)
握った直後から感じている感触に、ライアンは驚きと同時に困惑を覚えている。
彼はアールウェイ王国の王として基本的にはどこにいても帯剣することを許されているが、カナタの前で剣を抜いたことは一度もない。
故に、自分の手に馴染むよう工夫することすら本来であればできないはずなのだ。
そもそも、一流の鍛冶師であっても見ただけで完璧に手に馴染む剣を作ることは不可能と言われている。
それをカナタは、一度として見たことがないにもかかわらずやってのけてしまったのだ。
「……これが、錬金鍛冶なのだな」
「……ど、どうでしょうか、陛下? 気に入っていただけたでしょうか?」
賢者の石のおかげで僅かに楽になったカナタは、リッコの手を借りて体を起こし、椅子にもたれながら確認を取る。
不敬だと言われてもおかしくはない姿勢だが、寝ているよりかはマシだろうと彼は考えた。
「……本当に、素晴らしい剣だ。我は、この剣を気に入ったぞ!」
「父上。それは王の剣でしょうか? それとも、勇者の剣でしょうか?」
「何を言っているか、ライル! これは我の剣だ! 王の剣だ! 我の手に馴染むようカナタが作ってくれたのだから、絶対に誰にも渡さぬぞ!」
確認のためにと声を掛けたライルグッドだったが、ライアンが思いのほか反応を示して苦笑いを浮かべてしまう。
しかし、カナタとしてはライアンの言葉がとても嬉しく、ホッと胸を撫で下ろしていた。
「それは、よかったです。殿下に作った時もそうでしたが、錬金鍛冶の中でのオーダーメイドなので、他の方に渡すとなるとおそらく違和感を覚えるでしょうから」
「ほら見ろ! これは我の剣だからな!」
「いや、俺はただ確認を……いや、もういいです。これ以上は何も言っても意味がなさそうですから」
小さくため息をついたライルグッドは、作業台から離れてカナタの方へ歩いていく。
そして――何を思ったのか片膝をついて感謝の意を伝えてきた。
「カナタよ。この度は王の剣を作っていただき、感謝いたします」
「なっ!? で、殿下、何をしているんですか!!」
「王命だったとはいえ、カナタをここに連れて来たのは俺だ。カナタに何があろうとも、俺はお前を守るつもりでいたのだが……取り越し苦労だったようだな」
「あ、頭を上げてください!」
「我も礼を言うぞ、カナタよ! この剣は最高の品だ! 間違いなく一級品であり、我が持つ中でも一番の剣である!」
「へ、陛下まで!?」
ライアンが頭を下げることはさすがにしていないが、それでも一国の王から礼を言われるなど思いもしなかったカナタは慌てふためいてしまう。
その隣に座っていたリッコは何故か胸を張っており、その表情はドヤ顔だ。
「さて、カナタよ! この剣、なんと名付けるのだ!」
「名付け、ですか? ……そこは陛下にお任せいたし――」
「ならん! 我はカナタに付けてもらいたいのだ!」
「うぐっ!? ……わ、わかり、ました」
まさかここでも名付けをすることになるとは思いもよらず、しかしライアンの頼みとなれば断ることは許されない。
なんとか了承の意を伝えたものの、すぐに名付けられるわけもない。
リッコのアクアコネクト、アルフォンスのフリジット、ライルグッドの剣はリッコが名付けたようなものだがシルバーワンと名付けが終わっている。
ここで変な名前は付けられないと、カナタは疲労が残る頭を必死に回転させて考え始めた。
(……黒星の欠片……純精錬鉄……ビッグホワイトスライムの魔石……黒と銀と白)
剣を作るのに使った素材、そしてそれぞれの色を思い出しながら、ライアンが持つにふさわしい名前を考えていく。
(……重力を操る力……王……)
黒星の欠片が持つ力、そして王であるライアンのことが頭に浮かんでは消えていく。
(……ブラックやホワイト……違う。シルバーは殿下の剣だ。……なら、重力と王で分かりやすい名前の方がいいんじゃないのか?)
そこまで考えが行きつくと、カナタの頭の中に一つの答えが浮かび上がった。
「……グラビティアーサー」
ポツリと呟かれた名前を聞いて、ライアンは手に握る剣へ視線を落とした。
「ふむ、重力の王か……ふふふ、我が持つにふさわしい名前ではないか! 決まったぞ、この剣の名は――グラビティアーサーである!!」
大陸だけではなく、世界初の剣を作り上げたカナタは、名付けを終えてようやく肩から力を抜くことができたのだった。
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