第157話:拒絶反応
素材融合が完了すると、工程は鍛冶へと移っていく。
黒星の欠片と純精錬鉄が融合したことで、漆黒だった欠片に淡い銀色が含まれる。
そこへ掛け合わせる素材が、ビッグホワイトスライムの魔石だ。
これが成功すれば、ようやく成形作業を始めることができる。しかし――
「ぐおっ!?」
先ほどまでは感じられなかった圧迫感が突如としてカナタへ襲い掛かって来た。
「カ、カナタ君!」
「くっ! ……これは、いったい、なんなのだ!」
「……体が、重い? まさか、黒星の欠片か!」
圧迫感はカナタだけではなく、リッコたちにも襲い掛かっていた。
リッコが心配の声をあげる中、体が重くなっていることに気づいたライアンが融合素材に視線を向ける。
すると、見られていると素材が気づいたのか、ライアンへの圧力がさらに強いものになった。
「ぬおぉっ!?」
「へ、陛下!」
あまりに強い圧力に片膝を地面につけると、アルフォンスが目を見開いた。
「も、問題ない! ……カナタ・ブレイドよ、頼むぞ!」
「……は、はい!」
そして、今まさに黒星の欠片と戦っているカナタへ声を掛けると、その言葉に彼も応えようと集中力を増していく。
徐々に光を増していき、お互いが近づいていこうとした――その時だった。
「があっ!?」
「カナタ君!!」
ビッグホワイトスライムの魔石と掛け合わされることを拒否するかのように、カナタへの圧力が増幅していく。
リッコの声が鍛冶部屋に響き渡る。
しかし、カナタは膝を折りそうになりながらも職人の意地で立ち続け、リッコに向けて強がりな笑みを返した。
「……いいぜ、やってやろうじゃないか。俺とお前の勝負だ、黒星の欠片!」
鉱石が意思を持つということがあるのだろうか。
普通に考えればあり得ないはずだが、黒星の欠片は空から大地に落ちてきた謎の多い鉱石だ。
黒星の欠片が持つ力は解明されたものの、それを使って何かを作ったという話は誰も聞いたことがない。
もしもカナタが成功させてしまえば、それは世界初の成功例になるだろう。
しかし、カナタがそのことを知っているはずもない。彼はただ、職人として素材と向き合い、自分の手で形作ろうとしているだけだ。
「……がっ! ……はは、まだまだ、やれる、ぞっ!」
全身から汗が噴き出し、服が汗でびっしょりと濡れ肌に張り付く。
ただ立つという行為ですら苦しくなり、意識が飛びそうになる。
その度に唇を噛み、痛みで血を流しながら覚醒を促していく。
リッコたちはその光景をただ見ていることしかできず、どうしようもない悔しさが湧き上がってきてしまう。
すると、少しずつではあるがリッコたちに掛かっていた圧力が弱くなり始めた。
「……な、なんだ? どうしたんだ?」
「……もしや、カナタ様が黒星の欠片に打ち勝ったのでは?」
ヴィンセントの言葉にホッと胸を撫で下ろそうとしたリッコだったが――
「……がああああぁぁああぁぁっ!?」
突如としてカナタの呻き声が響き渡った。
「カ、カナタ君!!」
「……ち、父上! 一度錬金鍛冶を中断させてくれませんか! このままでは、カナタが持たない!」
「もうよいぞ、カナタよ! 素材が無駄になるのは仕方がないから、諦めよ!」
ライルグッドの申し出を受けてライアンが声を張り上げる。
「……ダ、ダメです」
「カナタ君! もう止めて!」
「……職人が、素材を無駄にするなんて、絶対にやってはダメなんだ!」
鍛冶師の家系に生まれたカナタは素材に対する愛情を強く持っている。
それが鉱石であれ、魔獣素材であれ、空から降って来た謎の素材であれ、自分が手を加えるのであれば絶対に形にするんだという決意を抱いている。
途中で諦めてしまえば、その素材はダメになってしまい二度と使えなくなってしまう。
それだけは絶対にやってはならないと、自分の中で決めているのだ。
視界に火花のようなものが明滅しているような錯覚すら覚え始めたその時、カナタは腹の底から、今まで出したことのない声を発した。
「……俺に……従ええええぇぇええぇぇっ!!」
目を見開き、唇を噛み切りほどの力をカナタは全身に込める。
直後――さらに強烈な光が鍛冶部屋を真っ白に染め上げた。
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