第155話:陛下へ献上する剣
場所を移動したカナタたちが向かったのは、城の中に併設されている鍛冶部屋だった。
カナタが鍛冶道具を必要としないのはわかっているが、所かまわず錬金鍛冶を行うわけにもいかないので、鍛冶部屋に移動してカモフラージュを試みたのだ。
しかし、そこには招かれざる客が存在していた。
「ち、父上!?」
「おぉ、ライル。もう準備ができたのか?」
「準備がどうのこうのじゃありません! どうしてここにいるんですか!」
「カナタ・ブレイドの鍛冶を見届けたいと思ってな!」
「そんな簡単な話じゃないでしょう! 公務はどうしたのですか!」
「置いてきた。急ぎのものはなかったからな」
「……はああぁぁぁぁ」
ライアンの言葉にライルグッドは彼の目の前で大きなため息をつく。
当てつけでついたため息だったが、ライアンは全く気にすることはなく、その視線をカナタへと向けた。
「それで、いったいどんな素材を選んできたのだ?」
「……あの、えっと、いいんでしょうか、殿下?」
こうして面と向かって話をしていいものなのかとライルグッドに確認しようとしたカナタだったが、それをライアン本人が笑いながら問題ないと口にした。
「ふははっ! 問題はないぞ、カナタ・ブレイドよ!」
「……本人がいいと言っているのだ、構わんだろう」
「……わ、わかりました。それでは、素材を取り出します」
魔法袋から三つの素材を取り出して作業台に置いていく。
黒星の欠片、精錬鉄、そしてホワイトスライムの魔石。
取り出されるにつれて価値の下がる素材を見て、ライルグッドたちは冷汗を流してしまう。
しかし、剣を作ってもらうライアンは、全ての素材が取り出されると目を輝かせて何度も力強く頷いていた。
「うむ、うむ! なるほど、そうきたか!」
「どうしたのですか、父上? 精錬鉄にホワイトスライムの魔石ですよ?」
「ライルよ。お主、気づかないのか?」
「気づかないって、何にですか? もしやこれらは、特別な素材なのですか?」
「なんだ、やはり気づいていなかったのか。これらがあった場所がどこなのか、もう一度思い返してみよ」
ライアンの意味深な言い回しに、ライルグッドだけではなく全員が考えを巡らせていく。
「場所って言われると、国の倉庫としか答えようがないぞ」
「……あれ? でも、どうして精錬鉄やホワイトスライムの魔石が国の倉庫にあったのかしら?」
「ふむ、言われてみると不思議ですね」
「もしや、この二つも黒星の欠片と同等の価値を持つ素材だということですか?」
ライルグッド、リッコ、アルフォンス、ヴィンセントと意見を口にしていく。
一方でカナタは四人が考えている質問の答えには興味がなかった。
自分の直感を信じて、それが間違いではないと思っているからだ。
「まあ、そういうことだな。どうでもよい素材を国の倉庫に保管しているわけがないだろう」
「それはそうですが……ならば、この二つの素材はいったいなんなのですか?」
疑問が尽きないといった感じでライルグッドが問い掛けると、ライアンはニヤリと笑いながら答えた。
「精錬鉄の方は純精錬鉄。不純物を完全に排除して作られた素材であり、融合することで掛け合わせた素材が持つ効果を模倣することができる、極めて貴重な素材だ」
「そ、そんな素材、聞いたことがありませんよ?」
「純精錬鉄を作れる錬金術師は限られているからな、仕方のないことだろう」
「でしたら、ホワイトスライムの魔石はどうなのですか? ヴィンセントが微弱ながら魔力を感じると口にしておりましたが?」
「ほほう! さすがはヴィンセントだな、ホワイトスライムの魔石が持つ魔力に気がついたか!」
「いえ、陛下。私が感じたのは、確信を得られない極々微量な魔力のみでした」
謙遜するヴィンセントだったが、それでもライアンは諸手を上げて彼を褒め称えた。
「それでも素晴らしい! まあ、これがビッグホワイトスライムの魔石だから、魔力を含んでいたわけだがな!」
「……ビ、ビッグホワイトスライムの魔石なのですか、これは!?」
ライアンの言葉に驚いたのは、褒められていたヴィンセント本人だった。
「ビッグ系の魔獣は、その存在は確認されているものの見つけるのが非常に難しいと言われている魔獣ではありませんか! しかも、ホワイトスライムは元々が姿を人前に現すことすら珍しいとされております! そんな魔獣のビッグ系の魔石だとは知りませんでした、陛下!」
「ヴィンセント、悪い癖が出ているぞ」
「はっ! ……も、申し訳ございませんでした!!」
「ふははっ! よいよい、素晴らしい人材だと思っていた相手が、我の想像を超えてきたのだからな!」
大笑いしているライアンだが、ビッグホワイトスライムの魔石についての説明は途中で止まっている。
ライルグッドは早く説明を聞きたいのだとソワソワし始めていた。
「父上! 早くビッグホワイトスライムの魔石がどのような効果を秘めているのかを教えてください!」
「あぁ、そうだったな。ビッグホワイトスライムの魔石の効果、それは――素材が持つ力を増幅させる付与効果を持っているのだ!」
ビッグホワイトスライムの魔石が持つ効果を聞いて、カナタたちは驚愕を隠せなかった。
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