第154話:ホワイトスライム

 ――スライム。

 まるで水の塊のような見た目で基本は丸く、天敵が現れると形を自由自在に変えて撃退したり、種類によっては魔法を放つこともある。

 魔獣の中でも最弱と呼ばれている種類なのだが、もちろん中には強力な種類も存在している。

 特にブラックスライムは強酸を体内で作り出して吐き掛けることで、触れた部分を一瞬にして溶かしてしまうため、Bランク魔獣やサイズによってはAランク魔獣になることもある。

 しかし、その中でも普通のスライムと並び脅威が低く、ランクも最弱のFランクに設定されているのがホワイトスライムなのだ。

 攻撃手段が体当たりしかなく、それすらもダメージがほとんど存在しない。

 魔石にも特別な付与効果が存在しないことから、無害な魔獣とすら言われていた。


「……うぅぅ……これも、信じないと、いけないのよね!」

「ありがとう、リッコ!」

「ちょっと待てええええぇぇっ!!」


 先ほどの決意表明があったからか、リッコはなんとかホワイトスライムの魔石を使うことに納得したのだが、今回はライルグッドが待ったを掛けた。


「カナタ! 本当に、本当にこれでいいのか! 大事のことだからもう一度言うぞ? 本当にこれでいいのか!」

「大丈夫です、殿下」

「根拠はなんだ!」

「直感です!」

「ぐはっ!?」


 その場に膝をついて崩れ落ちてしまったライルグッド。

 慌ててアルフォンスが手を貸すが、それでもすぐには立ち上がれない。

 しかし、唯一ヴィンセントだけがホワイトスライムの有用性に気づいたのか何やら考え始めていた。


「黒星の欠片に、精錬鉄……それだけではなく、ホワイトスライムの魔石ですか」

「……どうしたのだ、ヴィンセント? 何か知っているのか?」

「いえ……おそらくですが、カナタ様の選択は間違いないかもしれません」

「そうなのか? ならば、その理由を説明できるのか? 俺にはさっぱりだぞ?」


 力なく声を発したライルグッドに、ヴィンセントが自らの推測を口にしていく。


「精錬鉄もホワイトスライムも、混じり気のない純粋な素材だということです」

「……ど、どういうことだ? それでは素材の特徴を活かせないではないか」

「確かに、単体で見てしまえばそうなりますが、逆の見方をすれば強烈な個性を持つ素材の邪魔をしないとも言えるのではないでしょうか?」


 ヴィンセントが見出した有用性、それは黒星の欠片が持つ強烈な個性をより強く発揮できる組み合わせではないか、というものだった。

 精錬鉄は鉄の中でも不純物を完全に排除して作られたものだが、作る人によっては精錬鉄にも善し悪しが出てきてしまう。

 同じ精錬鉄だからと目利きもせずに購入してしまうと、あとで痛い目に遭ってしまうのだ。

 そして、ホワイトスライムの魔石も付与効果が全くないと言われており、完璧に錬金術が作用した精錬鉄と似たようなものだとヴィンセントは口にした。


「だ、だが、無害なだけでないのと同じではないか! 一緒に使う意味がわからんぞ!」

「そこはまあ……カナタ様の直感に懸けるしかありませんね」

「結局はそこか!」


 納得しかけていたライルグッドだが、最終的にはまた頭を抱えてしまう。

 しかし、そこへ助け舟を出したのはアルフォンスだった。


「……殿下、ヴィンセント様の言葉はあながち間違いではないかもしれません」

「アル、お前まで言うのか?」

「先ほどからホワイトスライムの魔石に何かないかと見ていたのですが、微弱ながら魔力を感じるのです」

「ホワイトスライムの魔石から魔力だと? まさか、無害な魔獣なのにか?」

「はい。その、やはり私も確信を得られないのですが……」


 アルフォンスにジト目を向けながらも、ライルグッドはしばらくして大きく息を吐き出した。そして――


「……わかった! 俺が言ったことだ、信じないわけにはいかんだろう!」

「で、殿下!」

「こうなったのも全て父上のせいなんだからな! 俺は知らん、カナタを信じる! ただそれだけだ!!」


 やけくそのようにも見えるライルグッドだが、それでも信じてもらえたのだとカナタは嬉しくなっていた。

 そもそも、ここは国が管理する倉庫であり、宝物が保管されている場所でもある。

 そのような場所に保管されていた精錬鉄であり、ホワイトスライムの魔石なのだから、全く何もないということはなかった。

 ただし、その事実を知っているのはライアンを含めたごくわずかであり、それはライルグッドも知らないことだった。


「よし! これで陛下にふさわしいと思ってもらえる剣を作ってみせる!」


 それはカナタも同じである。

 そして、知らないからこそ全力で剣の作成に挑み、それによって再び様々な問題に巻き込まれていくことを、今はまだ知らないのだった。

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