錬金鍛冶師の生産無双 生産&複製で辺境から成り上がろうと思います

第153話：黒星の欠片と融合素材

　一拍を置いて黒星の欠片の貴重性をじわじわと実感したカナタは、ヴィンセントの言葉をしっかりと受け止めて一つ目の素材を決定した。

「……あとは、これと掛け合わせる融合素材を――」

「おいおい、カナタ！　本当に大丈夫なのか？」

「そうだよ、カナタ君！　黒星の欠片って、小指くらいの大きさでも鉱山が一山買えるって言われているのよ！」

「はあっ！？　こ、鉱山が買えるって、マジかよ！」

「本当ですよ、カナタ様。ですが、私は陛下が持つにふさわしい素材だと思いますので、賛成いたします」

「私ももちろん賛成です、カナタ様！　あぁぁ、黒星の欠片……まさか生きているうちにこれだけ巨大な欠片に触れる機会が訪れるなんて……ああぁっ！！」

　一人だけ別の方向に思考が向かっているが、カナタは気にすることなく次の素材を探しながら黒星の欠片を選んで理由を説明する。

「陛下が持つ剣を超えるものを作るには、大陸に存在する素材ではどうしようもありません。オリハルコンとアダマンタイトを融合させたオリュフィタイトを超えるものとなれば、大陸の外に目を向けないといけないんです」

「それもそうだが……いや、止めておこう。俺も賛成だ」

「殿下まで！？」

「リッコ、お前はカナタの彼女なのだろう。信じてやってもいいんじゃないか？」

「かのっ！？　……あ、改めて言われると、なんだか恥ずかしい……ごほんっ！　わかったわよ、信じるわよ！　やってやりなさい、カナタ君！」

「え？　あ、あぁ、おう」

　急に全員が賛成に転じたことで、カナタは改めて融合素材を探し始める。

　とはいえ、黒星の欠片と相性の良い素材がどれなのかなどわかるはずもない。

　ただ眺めているだけの時間がしばらく続くと、ふいに視線の端で気になる素材を見つけた。

　特別珍しい素材ではなく、そして高価なものでもない。

　しかし、不思議とその素材から目を離すことができなくなっていた。

「……これなのか？」

　鍛冶師として腕に覚えがあるわけではない。

　素材の知識が誰よりも豊富だと言えるわけもない。

　これもひとえに錬金鍛冶師として経験を積んだカナタだからこその直感なのだが、それに彼が気づくのはまだ難しかった。

「どうしたの？　……え、これって、精錬鉄？」

「ふむ……ごく普通の精錬鉄ではありませんか？」

「カナタよ、さすがに黒星の欠片と精錬鉄を融合させるのはどうかと思うんだが？」

「……今回に関しては、殿下の意見に賛成です、カナタ様」

　さすがに今回は全員から反対意見があがったのだが、カナタの直感はこれしかないと伝えている。

「いいや、これだ。上手く言えないんだけど、これじゃないとダメな気がする」

「これじゃないとって……大丈夫なの、ヴィンセント様？」

「さすがにこればっかりはなんとも言えませんねぇ」

「いかがなさいますか、殿下？」

　腕組みをしながら考え込んでいたライルグッドに全てが委ねられる。全員の視線が彼に向き、その中でもカナタは決意のこもった視線を向けていた。

「……はぁ。わかった、いいんじゃないか」

「あ、ありがとうございます、殿下！」

　まさかの賛成にカナタ以外の全員が驚いてしまった。

「ちょっと、殿下！？」

「よろしいのですか？」

「理解しかねます、殿下」

「アルやヴィンセントは仕方ないとしても、リッコにはさっきも言っただろう。もっとカナタを信じてやれ」

「いや、信じるにしても、黒星の欠片と精錬鉄はさすがに……」

「リッコ」

　どうするべきか考えていたリッコに、カナタは強い口調で声を掛けた。

「俺には上手く説明できないが、これじゃないとダメなんだ。信じてもらうには説得力が全くないことは理解している。だけど、信じて欲しいんだ」

「……本当に、大丈夫なのね？」

「大丈夫だ」

「…………ぅぅ～っ！　わかった！　私もカナタ君を信じる！　これでダメなら一緒に死んでやるわ！」

「おいおい、父上は約束を反故にするような人間ではないぞ？」

「わかってるわよ！　気持ちの問題よ、気持ちの！」

　やや開き直った感じのリッコだったが、カナタを信じる気持ちに嘘はない。次からは何を提示されても頷いてやろうと心に決めている。

「それと、魔石に関しては……うん、これだな」

　最後にカナタが選んだ素材、それは――

「ホワイトスライムの魔石だな」

「「「「…………ええええぇぇええぇぇっ！？」」」」

　またしてもリッコの決意を試すような素材を選択したカナタに、全員が呆れにも似た声を漏らした。