第152話:国の倉庫にある素材

 その後、グダグダになった謁見が終わり、カナタたちはライルグッドの案内で国の倉庫へと足を運んだ。

 辿り着くまでにいくつもの検問、確認が行われるはずだが、ライルグッドがいるからかほぼ素通りで到着できた。


「……よかったんですか、殿下?」

「構わんさ。何せ、俺は第一王子だからな」

「……ですよね~」


 苦笑いを浮かべながら倉庫の扉を開けてもらうと、そこには数多くの金銀財宝が並べられており、カナタだけではなくリッコも、そしてヴィンセントですら気圧されてしまう。

 その中に普段と変わることのない歩みで入っていくライルグッドとアルフォンスは、やはり一国の殿下とその護衛騎士だった。


「……ん? どうしたんだ、お前たち?」

「……いえ、その、気圧されていました」

「これにか? ……まあ、普通はそうなのか?」

「……普通はそうですよ、殿下?」


 どうにも感覚が合わないライルグッドとカナタたちだが、これはどうしようもないことだと割り切ると、カナタたちも倉庫へ足を踏み入れる。

 それでも、少しでも触れて倒しでもしたら大問題になると思い、足取りはとても慎重だ。

 ライルグッドが言うには素材類は倉庫の奥に保管されているらしく、カナタとしてはどうして保管の順番が逆ではないのかと思わざるを得ない。

 さっさと歩いていく二人の後ろをゆっくりと進みながら、ようやく素材が並んでいる最奥に辿り着いた。


「……おぉ……おおぉっ! こんなに、貴重な素材が!」


 そして、先ほどまでの慎重な足取りとは真逆の反応をカナタは見せた。

 興奮のあまり大きな声をあげ、頬を高揚させながら笑みを浮かべている。

 その姿にライルグッドは誇らしげな笑みを浮かべ、リッコは苦笑しながらもやはり職人なんだと思いながらカナタを見つめていた。


「この中から、父上のために作る剣の素材を選んで欲しい」

「はい! ……あ、でも、これはダメってのとかありますか? 王族の常識とか、俺はわからないので」

「ダメなものか、そうだなぁ――」


 ライルグッドが言うには、民の前で披露することもあるので豪奢なものであることが望まれる。

 過去の国王や一領主であれば、それだけで問題はなかっただろう。

 しかし、ライアンに関してはそうではなかった。


「陛下は、剣術にも長けているんですね」

「今の俺と同じように、前線に出て魔獣を討伐したりしていたからな。正直、今でも父上には勝てる気がしない。アルはどうだ?」

「私など、足元にも及ばないでしょう」

「殿下にアルフォンス様がそこまで……ちなみに、現在陛下が携えている剣の素材を伺うことはできますか?」


 興味本位で口にしたカナタだったが、その素材を耳にした途端、あまりに伝説的な素材ばかりで気後れしてしまう。

 鉱石最高峰の素材であるオリハルコン、次いで最高峰となるアダマンタイト、この二つを融合させた融合素材のオリュフィタイト。

 さらに魔石を使っているのだが、これがSランク魔獣である雷竜サダルカンド。

 これはライアンと雷属性との相性が非常に高いからこそ用意された素材なのだが、だからといって実力が伴わなければ素材に振り回されてしまう。

 素材を屈服させ、さらに従わせることで、一等級最上位の剣を振るうことが許されるのだ。


「それらの素材に勝るとも劣らない素材で、剣を作らないといけないのか」

「そう考えると、ものすごい無茶ぶりをされている気がするわね」

「賢者の石を作るよりも難易度は高いと思いますよ」

「……ですよねぇ~」


 リッコとヴィンセントの言葉を受けて、カナタは大きくため息をつく。

 しかし、自分からやると言った以上は諦めるわけにもいかない。

 まずは手当たり次第で素材を確かめ、ライアンが持つにふさわしい剣を作るために必要なものを見極めていく。

 あれではない、これでもないと、カナタは素材一つひとつを手に持っては、首を横に振って元の場所に戻す。

 どれだけ同じ作業を繰り返したかわからなくなったタイミングで、カナタの視線が一つの素材で止まった。


「……これは、融合素材? 見たことがないなぁ」

「ん? なんだ、その素材は?」

「殿下もわからないんですか?」

「あぁ。ヴィンセント、わかるか?」


 ライルグッドも初めて見る素材に困惑し、意見を求めるためにヴィンセントへ声を掛けた。


「どれどれ……ん? おぉ、これは……素晴らしいです!」


 珍しい素材に周囲をキョロキョロしていたヴィンセントが歩み寄り謎の素材に視線を落とすと、倉庫に来た時以上に目を輝かせ始めた。


「艶のある黒色! そしてこのサイズ! あぁぁ、これだけのサイズの鉱石があればまさに国宝級! 国の倉庫に保管されるべきものであり、これならば陛下が手にする剣にふさわしいものになるでしょう!」

「……あー、ヴィンセント? 興奮するのは構わんが、そろそろこいつの正体を教えてくれないか?」


 研究者モードになってしまったヴィンセントに対して、ライルグッドが呆れを滲ませながら口を開く。


「おっと、失礼いたしました、殿下。こちらはこの大陸のものではない、空から降って来た鉱石――黒星こくせいの欠片になります!」


 声高らかに告げられた鉱石の名前を聞いて、全員がすぐには理解できず首を傾げた。

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