第151話:陛下に捧げる剣
「へ、陛下! それはあまりにも急ではありませんか!」
異を唱えたのはライルグッドだったが、ライアンの決定は覆らない。
「何を言うか! ライル、お主もカナタに対して急に剣を作るよう言ったようではないか!」
「なっ!? ど、どうしてそのことを……ア、アルだな!」
「報告は正確に行わなければなりませんので。ちなみに、私の剣はカナタ様が私のためを思って自主的に作ってくれたものです、催促も何もしておりません」
「アル、お前! 俺を裏切るのか!」
「違います、殿下。報告を正確に行っただけです」
先ほどまでの厳かな雰囲気はどこへやら、ライアン、ライルグッド、アルフォンスの三人の言い合いのせいで、どこか間の抜けた空気が広がってしまう。
しかし、この場で口を開けるわけもなく、カナタとリッコは三人の顔を交互に見ていることしかできない。
そんな二人に声を掛けたのは、ヴィンセントだった。
「……きっと陛下は、ずっとカナタ様の剣を所望していたのでしょう」
「……お、俺の剣をですか?」
「……まあ、一等級の剣を突然見せられたら、欲しくもなっちゃうかもねぇ」
リッコの意見もわからなくはない。しかし、ライアンなら自分が作る剣よりも素晴らしい剣を持っているだろうというのが、率直なカナタの感想だった。
「カナタよ! どうだろう、一等級品でなくとも構わん、まずは一振り作ってくれないだろうか!」
「父上! いくらなんでも……って、一等級品じゃなくても、いいのか?」
「カナタ様、ここは一つどうでしょうか? 一等級品でなくても構わない、という言質を取りましたので落としどころかと」
「あ、いや、そうじゃなくて」
剣を作ってもらいたいという一心から出た言葉だったが、それがライアンにとって仇となった。
言質を取られた相手がただの貴族であれば問題はなかっただろう。しかし、相手はライアンの実子であるライルグッドである。
言った言わないが通用する相手ではなく、ライアンは慌てふためいていた。
「あの、えっと、そういうことでよろしければ、お引き受けいたします」
「なあっ!? ……あぁぁ、いや、まあ、そうだな。無理を強いることはできないか」
「ですが、私も職人の端くれとして、全力で作品に取り掛かりたいと思います。私にできる最高のものを陛下に献上させていただきます」
寂しそうにしていたライアンの表情が、カナタの言葉にパッと明るくなった。
「おぉっ! 本当か、カナタよ!」
「はい。ですが、その……ほ、本当に一等級品にならなくても、お咎めはなしでよろしいのでしょうか?」
「安心しろ、カナタ。俺とアルが言質を取っているんだからな」
「言質がどうのこうのは関係ない! 我が言っているのだから当然だろう! 素材も国の倉庫にあるものであれば何を使っても構わん! なんなら我の秘蔵の素材を出しても――」
「ふ、普通の素材だけで構いません!」
ここで伝説級の素材を持ち出されたとしても、失敗でもしたら目も当てられない。
それこそお咎めなしという言葉がひっくり返るかもしれないと思えてならなかった。
「ふむ、ならばあとで俺が案内しよう」
「ありがとうございます、殿下」
「よろしく頼むぞ、ライルよ」
「……あのー、ちょっとよろしいでしょうかー?」
何やら問題解決の方向へ空気が進んでいる中、リッコがおずおずと手を上げた。
「ん? どうしたんだ、リッコ? お前にしては大人しいのではないか?」
「……陛下の御前ですから。それに、本題が全く進んでいないと思ったので声を掛けた次第ですが?」
「「「……あっ」」」
ここでようやく気づいたのか、カナタだけではなくライルグッドとライアンも似たような声を漏らした。
完全に蚊帳の外から眺めていたヴィンセントも、今だけは堪えることができずに笑いが漏れている。
「……ま、まあ、腕を見るには別の作品を作ってもらうことが一番だからな! 問題はない! うむ、問題はないのだ!」
「そうですね、父上!」
「それとですねぇ、殿下。さっきから普段の話し方に戻ってませんか? 陛下に対して父上と呼ばれていますよ?」
「「…………あっ」」
リッコはライルグッドにだけ指摘したつもりだが、ライアンもライルと愛称で呼んでおり、今回は親子で声を漏らしていた。
「…………ごほんっ! では、よろしく頼むぞ、カナタよ!」
なんとか取り繕おうとしたライアンだったが、すでにどうしようもなく、この場の全員が苦笑いを浮かべていたのだった。
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