第150話:ライアン・アールウェイ

 先に歩き出したライルグッドに続いて、カナタも王の間へ足を踏み入れる。

 その直後、周囲の空気感がズシリと重くなったように感覚をカナタは覚えた。


(……な、なんだ、これは? こんなの、感じたことがないぞ?)


 重い空気感を覚えたのはカナタだけではなく、リッコも同様に感じており額に汗を浮かべている。

 何度も謁見しているライルグッドとアルフォンスは慣れたものだが、ヴィンセントも久しぶりの謁見だからだろうか、表情は崩していないもののじっとりと背中に汗をかいていた。

 そのまま赤絨毯を進んで行き、段の手前で立ち止まると、最初に口を開いたのは――


「お戯れが過ぎます、陛下」

「……そうか?」


 その言葉を受けてなのか、カナタたちが感じていた重い空気感がスッと消えてしまい、今までと同じ空間に変わった。


「そなたがカナタ・ブレイドだな?」

「……は、はい! 勘当された身ではありますが、私がカナタ・ブレイドでございます!」


 何が起きたのか考える時間も与えられず問い掛けられ、カナタは慌てて口を開く。

 その答えにライアンは満足そうに頷き、そして隣に立っていたリッコにも声を掛けた。


「そして、そなたがワーグスタッド騎士爵の長女、リッコ・ワーグスタッドか」

「はい、陛下。お初にお目に掛かります、ワーグスタッド騎士爵が長女、リッコ・ワーグスタッドです」

「最近のワーグスタッド領は景気が良くなっていると聞いている。これからも励むよう、ワーグスタッド騎士爵に伝えておいて欲しい」

「領地に戻りましたら、そのように伝えたいと思います」


 カナタとは違い貴族の娘として正当な教育を受けていたリッコは、緊張している中でもライアンとのやり取りをそつなくこなしていく。


「さて、カナタよ。我がそなたを呼び出した理由は、ライルグッドから聞いているか?」

「は、はい。……その、勇者の剣を作って欲しい、ということで間違いはないでしょうか?」


 確認も含めてそう口にしたカナタだったが、ライアンが大きく頷いたのを見て間違いではなかったかと緊張してしまう。


「その通りだ。しかし、我もすぐにこの場で作れとは言えない。何故なら、勇者の剣というのがそう簡単に作れるものではないというのは理解しているからな」

「……あ、ありがとうございます」


 ライアンの言葉にカナタはホッと息を吐き出し、次の言葉を待った。


「ライルグッドの剣を作ったのもカナタだそうだな」

「はい。無礼かもしれませんが、ライルグッド様が手にしても遜色ないものを作りたいと思いながら、シルバーワンを作成いたしました」


 カナタの答えを聞いたタイミングで、王の間にライアンの側近が姿を現してライルグッドたちが預けた剣を運んできた。

 シルバーワンに関しては前回の謁見で目にしていたライアンだが、リッコとアルフォンスの剣は初めて見ることもあり、食い入るようにして見てしまう。


「ほほう! これがそなたらの剣なのか?」

「こちらがフリジッド、アルフォンス様の剣です。そしてこちらがアクアコネクト、リッコの剣です」

「うむむ……どれも素晴らしい剣ではないか。しかし、アルフォンスではこの剣を壊してしまうのではないか?」

「いいえ、陛下。その心配には及びません」


 ライアンの言葉に異を唱えたのはライルグッドだ。


「カナタが作った別の剣がアルフォンスの魔力量に耐えたのを、私がこの目で確認しております。この剣はミスリルと氷針石を使っておりますので、これが耐えられないはずがありません!」

「……そ、そうなのか、アルフォンスよ?」

「はい、陛下。私もそうであると確信を持って答えることができます」


 力強く語られた言葉に、何故かライアンはしょんぼりとした表情を浮かべてしまう。

 どうしたのかとカナタとリッコが疑問に思う中、すぐにピンと来たのはヴィンセントだった。

 そして、その結果はカナタの問題として降りかかることになった。


「……よし、カナタよ!」

「は、はい!」

「まずはそなたの腕を確かめたい。そのために――我に献上する剣を作ってもらいたい!」

「…………へ?」


 ライルグッドの剣を見てからずっと、カナタの作る剣に憧れを抱いていたライアンの提案に、彼は呆気にとられることしかできなかった。

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