第149話:王城、そして……

 ライルグッドについて進んでいたカナタたち。

 どこに向かっているかは理解していたが、途中で馬を厩舎に預けて徒歩で進み、目的地に続く跳ね橋の前にやって来ると、改めてここに向かうのかと自覚して緊張を余儀なくされた。


「……本当に、王城へ入るんですね」

「……そうね。私も初めてだから、緊張してきたわ」

「そう硬くなるな、二人とも」


 緊張していた二人に声を掛けたのは、ライルグッドだった。


「今回の謁見は陛下が望んだことだ。罪を償わされるとかでもないし、気楽に謁見してしまって構わんだろう」

「「それは無理!」」

「殿下。さすがに気楽には無理だと思います」

「そうですよ。私でも緊張はしますからね」


 ライルグッドの言葉に対して、アルフォンスとヴィンセントがため息交じりにそう口にする。


「ヴィンセント様でも緊張するんですか?」

「もちろんです。そもそも、陛下を前にして緊張をしないのは奥方様や王子王女様方くらいではないでしょうか」

「ヴィンセント様の言う通りです。私も陛下を目の当たりにすると、背筋が伸びますから」

「アルも緊張していたのか? それは初耳だぞ?」

「普段は殿下もいてくれますから、私は助かっているのですよ」


 跳ね橋が下りてくるまでの間の会話で、カナタは少しずつ緊張を和らげていく。

 それでも多少マシになったくらいで、いざ跳ね橋が下りてしまうと再び緊張が込み上げてきた。


「行くぞ。そろそろ覚悟を決めろよ」

「ぶ、不作法があったら、どうしましょうか?」

「安心しろ。カナタたちに貴族同士の作法を期待などしていないからな」

「……それ、安心していいんですか?」

「不作法があっても許されるということだ」


 それならば安心できると思いつつ、完全に跳ね橋が下りるとライルグッドが歩き出した。


「……ねえ、殿下。本当に私もついていっていいのかしら? 呼ばれているのはカナタ君だけなんですよね?」

「構わない。先触れからも、同行者全員を通すよう返答があったと聞いているからな」

「……わかったわ」


 カナタが心配でついていきたい気持ちも強かったリッコとしてはありがたい言葉なのだが、その真意がなんなのかを彼女は考えてしまう。

 そこがカナタとリッコの違いなのかもしれない。

 片や伯爵家に生まれながらも出来損ないと言われ続けてきたカナタ。

 片や騎士爵家に生まれてから領地のために活動してきたリッコ。

 領地運営に携わって来た数が多いリッコだからこそ、陛下の真意を読み解こうと知恵を絞っていた。

 それは王城の門を潜り、真っ赤な絨毯の上を歩き、謁見のために武器を預かってもらっている間も変わらない。

 しかし、結局は陛下の真意を読み解くことはできなかった。


「……もう、こうなったら当たって砕けろかしら」

「リッコ様。きっと陛下は特別な意図などないと思いますよ」

「どうかしら。王侯貴族の思惑に巻き込まれると大変だって、お父様から言い聞かされてきたんだもの」

「それは確かにありますが、それも王都にいればこそです。権力争いなんて、王城では日常茶飯事ですからね」


 元は王都で生活をしていたヴィンセントの言葉には重みがあった。

 とはいえ、今は生活の地を領地を預かりそこに移しているヴィンセントとしては、昔話程度に思っているのかもしれない。


「……カナタ君、大丈夫かしら」

「殿下が仰っていた通り、勇者の剣を作ることを命じられ、それを作り出すことができれば、問題など起きないでしょう」

「それじゃあ、作れなかったらどうなるの?」

「それは――」


 ヴィンセントが答えようとしたタイミングで、待合室の扉が開かれた。


「準備ができましたので、ライルグッド第一王子以下四名の皆様は王の間へお進みください」


 案内人の言葉に従い、カナタたちは歩き出した。

 ここからの私語は一切禁止となっており、通路を進んでいる間の静寂を妙に長く感じてしまう。


「……こちらでお待ちください」


 そう口にした案内人は一礼するとその場を離れてしまった。

 無言のまま、カナタたちは3メートルを超える巨大で豪奢な扉の前に立って待つ。そして――


「ライルグッド第一王子、以下四名、入門!」


 扉の内側から声が聞こえてくると、巨大な扉がゆっくりと開き始めた。

 隙間から眩しい光が通路に差し込み、カナタは目を細めて様子を窺う。

 音を立てながら開かれていく扉の先、そこに広がっていたのは広大な王の間と奥にある段々になった上に置かれた玉座。

 そして、玉座に鎮座するのは国王であるライアン・アールウェイその人だった。

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