第148話:王都アルゼリオス
スライナーダやアッシュベリーとは比べ物にならないほどの高い外壁が、アルゼリオス全体を覆い外敵から街を守っている。
遠くの丘の上から全体を眺めてみると、大きな建物が一つや二つではなく、数えきれないほどに乱立しており、その間を多くの群衆が行き交っている。
近づくにつれて街の賑わいが聞こえてきており、カナタの表情は自然と笑みを浮かべていた。
「……こんな高い外壁があるのに、外まで楽しそうな声が聞こえてくるんだな」
「アルゼリオスはアールウェイ王国の中でも一番の人口密集地ですからね。賑やかになるのも頷けます」
「その分、民からの不満の声も上がってくるから、大変といえば大変だがな。賑わいのない街よりかは、不満の声が出てくるくらいの方がちょうどいいんだろう」
「殿下は毒舌よねー」
門の前には検問を待っている人や馬車の列がずらりと並んでいる。
しかし、カナタたちは長蛇の列には並ばずに、そこよりも大きな門を構えている別の列へ向かった。
「並ばないんですか?」
「我々が民と同じ列に並んでしまうと、目立ち過ぎて問題が起きてしまうからな」
「私たちは王侯貴族用の門へ向かいます」
アルフォンスの言葉にカナタは納得してしまう。
下級貴族ならまだしも、王族のライルグッドが民と同じ列に並ぶなどあり得ないし、殿下だとバレてしまえば全ての民がひれ伏してしまい、門の前にはさらなる行列ができてしまうだろう。
「……この門って、リッコも通れたりするのか?」
「お父様の遣いとしてなら通れるけど、私個人としては通れないわ。貴族の子女ではあるけど、実際にワーグスタッド騎士爵ではないからね」
「だが、王都に居を構える貴族はその限りではない。貴族の子弟の中には、民に横暴な態度を取るものもいるからな。……正直、不快でしかないが」
あからさまに嫌そうな表情を浮かべたライルグッドを見て、カナタは苦笑いをする。
事実、ブレイド家でもユセフたちが領民に対して高圧的な態度で指示をしていることも少なくはなかった。
王都でも似たようなことが起きているのかと思うと、カナタはここでの面倒は起こさない方がいいと肝に銘じることにした。
「――ラ、ライルグッド殿下!?」
その時、王侯貴族用の門を守る騎士から声があがった。
周囲の視線が一斉にライルグッドへ向き、彼は威風堂々とした態度で口を開いた。
「戻ったぞ。すぐにでも陛下との謁見を求めるため、先触れを向かわせよ」
「はっ! かしこまりました!」
騎士の一人が休憩中の騎士に声を掛けると、慌てた様子で走り出した。
「では、向かうとしよう。彼らは俺の連れだ、そのまま入門させるぞ」
「はっ! もちろんです! お疲れ様です!」
右拳を左胸に二度ぶつける敬礼を騎士が行うと、ライルグッドは大きく頷いてから馬を歩かせる。
それに続いてアルフォンス、ヴィンセント、リッコも堂々とした感じで馬を進めていく。
その中でカナタだけはリッコと二人乗りでの入門なので、少しだけ恥ずかしそうに俯いてしまう。
(……こ、こんなことなら、アッシュベリーにいる時にでも乗馬を練習しておくんだったなぁ)
内心でそんなことを考えていたのだが、カナタの様子に気づいていたリッコが軽く肩を叩いた。
「前を見てみて、カナタ君」
「……前って、いったい何が……おぉぉ……これが……ここが、王都アルゼリオスかあ!」
先ほどまでの落ち込んだ気分はどこに行ったのか、カナタは視界に広がるアルゼリオスの街並みに、一瞬にして心を奪われていた。
遠くから見えていた群衆は健在で、目の前の幅広い大通りを埋め尽くすのではないかという数の民が行き交っている。
通りに並んでいる建物のほとんどが二階建て以上であり、中には窓から顔を出して外の人と楽しそうに会話を楽しんでいる民の姿も飛び込んできた。
それだけではなく、多種多様な商品を取り扱っているお店があれば、職人が自ら経営している専門店も数多く並んでいる。
時間があれば片っ端から覗いてみたい気持ちに駆られてしまい、落ち込んでいる暇なんてどこにもなくなっていた。
「うふふ。元気は出たかしら?」
「あぁ! ……あー、その、すまん」
「いいのよー。カナタ君も男の子だし、好きな女の子の前で恥をかいたとか思ったんじゃない?」
「うっ! ……まさに、その通りだよ」
心の内を見透かされてしまい、カナタはさっき以上に恥ずかしくなってしまった。
「今度、一緒に乗馬の練習をしましょうね!」
「……あぁ。よろしく頼む」
陛下との謁見が終われば、きっと時間を作ることができるだろう。
そう思いながら、カナタはアルゼリオスの街並みを眺めながら進んで行くのだった。
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