第147話:出発と同行者
アルフォンスが目覚めた翌日、ライルグッドが口にした通り王都に向けて出発することになった。
まだ全快とは言い難いアルフォンスだが、馬に乗ることは問題なく、さらに全員には内緒で素振りを行っており、ある程度であれば体も動くようになっていた。
「お前なぁ……」
「無理はしておりませんので、ご安心ください」
「そういうことを言っているんじゃない!」
ライルグッドの雷が落ちたものの、アルフォンスは特に気にした素振りもなく淡々と返事をしていた。
そして、二人が口論している中で別のところでもちょっとした問題が起きていた。
「え? 本当についてくるんですか――ヴィンセント様?」
カナタの言葉にヴィンセントは笑みを浮かべて頷いた。
「はい。こうすることが正しい選択だと確信しております」
「何を確信しているんですか?」
「それはまあ、王都に着いてからのお楽しみです」
カナタの疑問にはっきりとは答えず、ヴィンセントは自分が領地を離れている間のことを家令に指示を出していく。
「ヴィンセント様、どうするんだろう」
「さあ? もしかして、王都に何か用でもあるんじゃないの?」
そんな会話をしながら準備を進め、カナタたちはフリックス準男爵の館の前に移動する。
そこには洋服屋のアリーがおり、ザッジもわざわざ見送りにやって来ていた。
「カナタ! あんた、まーたどこかに行くのかい?」
「元々王都へ行く途中だったからね。でも、また遊びに来るよ」
「私も一緒に遊びに行きます!」
「そうかい? なら、その時はまた洋服を選んであげるよ!」
アリーは楽しそうに笑いながら二人の来店を歓迎すると口にした。
「……カナタ」
そして、申し訳なさそうにザッジが声を掛けてくる。
アリーは彼をじろりと睨んでいたが、カナタは気にすることなく前に出て真っすぐにザッジの目を見た。
「ザッジさん。これからは鍛冶師として、ヴィンセント様のために力を尽くしてください。そして、俺がフリックス領に足を運んだ時には、あなたの渾身の作品を見せてくださいね!」
「……あぁ、もちろんだ! どれだけのことができるかはわからないが、今度こそ決して折れないと約束しよう!」
力強い握手を交わし、カナタはリッコの隣に移動した。
急ぎ王都へ向かわないといけなく、ヴィンセントも自ら馬に跨り移動する。
カナタは相変わらずリッコと二人乗りだ。
「カナタ、あんたねぇ……しまらないわぁ」
「そ、そんなこと言わないでくださいよ、アリーさん」
「まあ、カナタはヤールスから馬術の指導もさせてもらえなかったからな、仕方がない」
「ザッジさん……ありがとうございます!」
「俺は鍛冶師としてもう一度努力をするから、カナタは馬術をリッコ様に教えてもらえ」
「……あ、はい」
ザッジの言葉に厳しい視線を送っていたアリーも笑みを浮かべ、カナタはこれでいいかと思うことにした。
「そろそろ行くぞ」
「カナタ様、行きましょう」
「リッコ様もよろしくお願いします」
ライルグッド、アルフォンス、ヴィンセントが声を掛けてきた。
二人は顔を見合わせると大きく頷き、そして馬を走らせる。
「必ず戻って来なさいよー!」
「俺の剣を見せられる日を、待っているぞー!」
アリーとザッジが大声でそう口にすると、カナタたちの姿が見えなくなるまで大きく手を振り続けたのだった。
◆◇◆◇
アッシュベリーを出発してからしばらく馬を走らせたカナタたち。
昼食を取るために一度休憩を挟んだのだが、その時にカナタは兄たちがどうなったかをヴィンセントに尋ねた。
「ヴィンセント様。ヨーゼス兄さんたちはどうなりましたか?」
「気になりますか?」
「まあ、一応は。あれでも俺に兄たちなんで」
そこでヴィンセントから聞いた内容は、概ねカナタの予想通りだった。
計画を主導したヨーゼスは鉱山送り。こちらは両親と長男がいる鉱山とはまた別の場所となっており、彼が強く希望した結果なのだとか。
ルキアとローヤンはすでにアッシュベリーを出発しており、すぐにでもフリックス領を出て行くことになるだろうとのことだった。
「念のために見張りを付けていますから、万が一にもフリックス領のどこかに隠れるということもないでしょうね」
「そうですか、わかりました」
現場で告げられた通りの処罰に、カナタは大きく息を吐いた。
「……厳しすぎましたか?」
「いいえ。これでようやく、俺はブレイド家の呪縛から本当に解放されたんだなって思ったんです」
「カナタ様の未来はきっと、とても明るいもの……いいえ、眩しいくらいのものになると思いますよ」
「あはは。そうなれるように頑張ります」
休憩を終えたカナタたちは再び出発すると――四日後には王都アルゼリオスに到着したのだった。
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