第146話:氷属性の剣
少々場が荒れてしまったが、ライルグッドがシルバーワンでいいと折れたことで一旦は落ち着いた。
そして、メインでもあるアルフォンスの剣の命銘へと移っていく。
「この流れで命銘かぁ。……なんだろう、ちゃんとした銘にしなくちゃって緊張してきたよ」
「やはりシルバーワンはおかしいのか? おかしいのだな!」
「はいはい、話題を掘り返さないのー」
「しかしだなぁ、リッコ!」
「落ち着いてください、殿下。話が進みません」
「アルまで!? ……もうよい! ほれ、さっさとアルの剣も決めてしまえ!」
少しだけ緊張していたカナタだったが、今のやり取りを見てふと緊張が和らいでいることに気がついた。
(……まさか、わざとふざけてくれたのか?)
そう思ったカナタだったが、一人だけぶつぶつと呟いているライルグッドを見て、そうではないのだと気づき苦笑いを浮かべてしまう。
とはいえ、リラックスできたのは確かなのでアルフォンスの剣を思い出しながら似合う銘を考えていく。
ミスリルと氷針石を使った氷属性に強い親和性を持っており、特徴ははっきりしている。
これからのアルフォンスを支えていけるよう、四等級とはいえ今できる全力を注いで作ったのだから、きっと彼の役に立ってくれるはずだと考えている。
(氷をイメージでいる剣で、アルフォンス様の支えになれるような剣……)
いくつかの候補が頭の中に浮かんでは消えていく中で、一つの銘が消えずに残ってくれた。
これが剣の銘にぴったりだと思ったカナタは、アルフォンスに視線を向けてこう口にした。
「……氷属性の剣、フリジッド」
「フリジッド……あぁ、なんでしょう、しっくりきますね」
「いい名前じゃないですか、アルフォンス様!」
「えぇ。私もその銘が良いと思います」
「……悔しいが、いいと思うぞ!」
ライルグッドだけは僅かに妬みが含まれているように感じたが、アルフォンスは全く気づいていなかった。
改めて剣を鞘から抜き、剣身に声を掛ける。
「……お前の名前は、フリジッドだ。どうだ、いい銘だろう?」
すると、まるでフリジッドが声に応えたかのように再び心地よい冷気がリビングにそよいでいく。
初めて体感するリッコとヴィンセントは驚いた表情でフリジッドを見つめ、カナタとライルグッドは笑みを浮かべる。
しばらく剣身を見つめていたアルフォンスは、満足したのかゆっくりと鞘に戻してカナタへ向き直った。
「素晴らしい銘、感謝いたします」
「気に入ってもらえたならよかったです」
「フリジッドがあれば、私は誰にも負ける気がいたしません」
「ほほう? ならば、私のシルバーワンと斬り合ってみるか?」
「いいですねぇ、殿下。病み上がりではありますが、気分は非常に高揚しております。今であれば最高の動きをお見せできると――」
「あー、いや、待て。やはり止めておこう。明日には出発だからな、うん」
「……それもそうですね。残念ですが、仕方ありません」
アルフォンスは心底残念そうに口にしていたが、ライルグッドからすると何度も負けている相手が最高の動きを見せると言ってきたのだ。
(そんなもの、勝てるはずがないではないか! 冗談を本気にしおって!)
そんなことを内心で思いつつ、ライルグッドは苦笑いを浮かべていたのだった。
その後、アルフォンスが気を失っている間の出来事を説明していくと、何故か彼は心底残念そうな顔を浮かべていた。
「どうしたんですか、アルフォンス様?」
「私が気を失っている間に、まさかカナタ様がそのような騒動に巻き込まれていたとは」
「あはは。でもまあ、身内事ですし、気にしないで――」
「目を覚ましていれば、私も本気でフリジッドを振るうことができていたでしょうか? 早くフリジッドを全力で振りたいです。殿下、やはり私と模擬戦をしませんか?」
「絶対に嫌だ! お前はさっさと休め、いいな!」
「……殿下のご命令であれば……くっ! 仕方ありませんね!」
「悔しがるな! いいな、さっさと休めよ!」
この時、カナタとリッコはアルフォンスの意外な一面を目撃したのだった。
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