第145話:突然の命銘式
お世話になった全員に挨拶をしたいとアルフォンスが口にすると、ライルグッドが肩を貸して移動した三人は、そのままリビングへと向かう。
そこにはリッコとヴィンセントが待っており、ライルグッドが一緒に姿を現すと少しばかり驚いていた。
「アルフォンス様、大丈夫なの?」
「心配をお掛けしました」
「今回は長期間でしたし、あまり無理はなさらないでください」
「フリックス様も、ご迷惑をお掛けしました」
二人からも心配の声が掛けられ、アルフォンスは申し訳なさそうに答えていく。
「……その剣、気に入ってくれたんだね」
「はい。むしろ、これを気に入らない者がいるとは思えません」
「そうでしょうね。私は錬金術師ですが、その剣の素晴らしさをひしひしと感じています」
「三人とも、大げさですって」
かなたが恥ずかしそうにそう口にすると、そこへライルグッドからこんな質問が飛び出した。
「ところで、カナタよ。アルの剣、これの銘は何と言うのだ?」
「……銘、ですか?」
突然の質問にカナタはポカンと口を開けたまま固まってしまう。
「あぁっ! 確かに、私もそれは気になってた!」
「気になりますねぇ、アルフォンス様の新しい剣の銘」
「カナタ様、ぜひ名づけをお願いいたします」
「……え? お、俺が名付けるんですか!?」
まさかの展開にカナタは驚いてしまったが、そこでニヤリと笑ったのが話題を振ったライルグッドだった。
「ということは、俺の剣にも銘を付けてくれるんだよな?」
「えぇっ!?」
「あ! それじゃあ私の剣もお願いね、カナタ君!」
「はあ!? ちょっと待ってくれ、いきなり三本の剣に銘を付けるとか、無理があるだろう!」
慌てて無理だと口にしたカナタだったが、アルフォンスは真剣な面持ちでこちらを見つめており、リッコとライルグッドも微笑みながら真っすぐに見つめている。
「……これは、カナタ様が折れるしかなさそうですね」
「……マ、マジかよ」
アルフォンスが無事だったことを報告するためにリビングへやって来たものの、この場は急遽命銘式の場に早変わりとなった。
最初に行われたのは、今日のメインでもあるアルフォンスの剣――かと思いきや、そこはライルグッドとリッコから却下の声があがった。
「メインなんだから最後の大トリだろう!」
「そうだよ! こうなったら作った順番で私、殿下、最後にアルフォンス様だよ!」
「あの、殿下、リッコ様? 私が大トリというのはどうかと――」
「「大トリ!」」
「……わかりました」
二人から圧を感じるような勢いで大トリと言われてしまい、アルフォンスは渋々引き下がる。
そして、最初はリッコの剣の命銘を行うのだが、そこでカナタはしばらく考え込んでしまう。
ただ剣を作ることばかり考えてきた人生で、まさか自分で作った剣の銘を付けることになるとは思わなかったのだ。
「……水結晶、精錬鉄、キラーラビットの魔石」
ぶつぶつと素材の名前を口にしながら、ようやく思いついた銘がポロリと口から零れ落ちる。
「……アクアコネクト」
カナタとリッコをつないだ、小さな魔石の青をイメージした銘。
まだ本決まりではなく、ただ思いついた銘を口にしただけだったものの、耳にしたリッコは大層気に入ってしまった。
「アクアコネクト……うん、アクアコネクト!」
「あの、リッコ? まだ決まったわけじゃな――」
「ううん、これがいいわ! 私の剣の銘は、アクアコネクトよ!」
最初こそ違うと口にしていたカナタだったが、本人が気に入ってしまったのだからこれ以上は何も言わないことにした。
そして、次にライルグッドの剣の銘を考えていく。
こちらは精錬鉄だけで作られた剣なので色合いから銘をイメージすることは難しい。
腕組みをしながら必死に考えていると、何かを思い出したかのようにライルグッドが口を開いた。
「……待ってくれ、カナタ」
「……どうしたんですか、殿下?」
「あぁ。……その、俺の剣だが、簡単にで構わないぞ?」
「え? あの、いいんですか? だって、白金貨一枚、貰っちゃってますけど?」
「えぇっ!? カナタ君、そんな大金を殿下から貰っていたの!」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「聞いてないわよ!」
思わずといった感じでリッコがライルグッドを睨むと、彼は苦笑しながら当時の状況を説明した。
「……要は、殿下が無理にカナタ君に剣をおねだりしたってことですか?」
「うっ!? ……その言い方は、どうかと思うぞ?」
「でも、間違いはないですよね?」
「…………あ、あぁ」
「やっぱりそうじゃないですか!」
「す、すまん! だが、その時は少しでもカナタの力を見たくてだなぁ」
「そのせいでカナタ君は半年も前倒しでスライナーダを離れることになったのよ!」
「それは! ……すまん」
リッコの言葉に何も言い返せなくなったライルグッドは、口を噤んでしばらくすると、謝罪を口にした。
「おい、リッコ。言い過ぎだぞ」
「カナタ君もカナタ君よ! 殿下のせいだって気づいていたんでしょう? ねえっ!」
「まあな。でも、それが悪いとは思っていないさ」
「え?」
勢いよくカナタにも食って掛かったリッコだったが、彼の言葉に一瞬だが目を見開いた。
「だって、そのおかげで殿下やアルフォンス様とは近い関係を築くことができたし、ヴィンセント様とも知り合うことができた。たまたまだけど、故郷にも戻ってくることができたわけだしね」
「カナタ君……」
「それに何より……リッコと付き合うこともできたわけだしな」
「――!?」
最後の言葉を満面の笑みで伝えられたリッコは、耳まで真っ赤にして盛大に照れてしまった。
「そ、そそそそ、そういうことを人前で言わないでよね!」
「あはは、ごめん」
「悪いと思っていないわよね、もう! そうだ、殿下の剣は簡単でいいんだったら、いっそのことシルバーワンでどうよ!」
「なっ! そ、そんな思い付きで言われても困るぞ! それにリッコが名付けているではないか!」
「いいじゃないのよ、シルバーワン! それで決まり、いいわよね、カナタ君!」
「え? あ、はい」
「おぉい、カナタ!?」
こうして、ライルグッドの剣の銘はあっさりと決まった。
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