第144話:誓いの剣

 ――コンコンコン。


 再びアルフォンスの部屋を訪れたライルグッドが先に中へ入り、続けてカナタが中に入る。

 その手にはカナタが全身全霊を込めて作ったものが握られていた。


「おはようございます、アルフォンス様。無事でよかった」

「おはようございます。ご迷惑をおかけしました。……カナタ様、それは?」

「はい。これは、俺が殿下の願いを聞き入れながら、アルフォンス様のために作り上げた剣になります」

「……殿下?」

「そんな怖い顔をするな、アル。お前がいなければ何もかもが終わっていた可能性もある。これは、今後も俺やカナタを守って欲しいという俺からの贈りものだよ」


 無理をしたのではないかというアルフォンスの視線を受けて、ライルグッドはニヤリと笑いながら口にした。

 そして、カナタがベッドの脇まで移動すると、直接アルフォンスに剣を手渡した。


「どうぞ、抜いてみてください」

「……では、失礼して」


 鞘から抜き放たれた剣は、窓から差し込む光を浴びると美しい銀色と青色を反射させて部屋の中を彩っていく。

 カナタとライルグッドは光を目で追いながらその美しさを堪能しているが、アルフォンスだけは剣身を見つめる視線を外すことができず、ただ見惚れてしまっていた。


「……美しいですね」

「そうだろう? 本来ならばカナタの全力をお願いしたかったんだが、そうなると王族が持つ剣の等級を超えそうだったからな。無理を言って四等級にしてもらった」

「……四等級、ですか? ……これが?」

「そのはずですけど、違いますかね?」

「……どう、でしょうか。本職の方がそういうならばそうなのかもしれませんが……いえ、疑うのは失礼に当たりますね」


 アルフォンスが剣を握った感覚では、間違いなく三等級に勝るとも劣らない雰囲気をこの剣は纏っている。

 そして、握っているだけで体内に宿る氷属性の魔力が喜んでいるのを感じ取ったアルフォンスは、いつの間にかこの剣を全力で振ってみたいという感情に溢れていた。


「……殿下、カナタ様。こちらの剣を、本当に私が頂いてしまってもよろしいのですか?」

「もちろんだ。言っておくが、その剣の大半はアルが使っていたミスリルの剣を使っているんだぞ?」

「そうなのですか?」

「はい。そこに殿下が提供してくれた氷針石を加えて、錬金鍛冶で新しく仕上げました。きっと、アルフォンス様の氷属性の魔力とも相性が良いと思います」


 カナタの言葉を聞いて、再び剣身に視線を送り波のように切っ先へ延びていく青色の筋を見つめる。


「……本当に、ありがとうございます!」

「これからも俺の護衛騎士として励み、時にはカナタを全力で守ることを誓うのだぞ?」

「はっ! アルフォンス・グレイルード、この身を賭してお二人をお守りすると誓います!」

「あの、俺のことはいいですからね? 殿下のことだけに集中してくださいね?」


 守る対象の中に自分の名前も出てきてしまい、カナタは慌てて否定する。

 しかし、アルフォンスは変わらない表情で首を横に振り、ライルグッドはニヤリと笑みを深くした。


「いいえ。カナタ様は私の恩人です。殿下と変わらぬように、あなたのこともお守りいたします」

「諦めろ、カナタ。こいつは頑固だから、一度決めたことをそう簡単には覆さないぞ?」

「だったら殿下から言ってくださいよ!」

「ダメだ。俺からの命令でもあるんだからな!」


 そう口にしたライルグッドは大声で笑い、カナタは呆れたように顔を覆う。

 その横で剣を鞘に戻したアルフォンスは、ニコリと笑い二人には聞こえない声で呟いた。


「……これからよろしく頼むぞ、新しい相棒よ」


 アルフォンスの言葉に応えるかのように、剣からは心地よい冷気が放出されると、アルフォンスの美しい銀髪がサラリと揺れたのだった。

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