第143話:目覚め

 翌日、ついに待望の目覚めがやって来た。


「――……ぅ……ぅぅん」

「目覚めたか、アル」

「……あぁ、私はまた気を失っていたのですね」


 キングアントとの戦闘からずっと気を失っていたアルフォンスが、とうとう目を覚ましたのだ。

 魔力を上手く扱えず気を失っていた時もあったので、アルフォンスは焦るでもなく、淡々に状況の確認を行う。


「……殿下。私はどれくらい眠っていたのですか?」

「一週間だな」

「いっ!? ……はぁ。過去最長でしたね」

「キングアントを倒すだけの魔力を使用したのだから、当然だろう」


 だが、さすがに過去最長の一週間と聞いた時には驚きを露わにしていた。


「……足を引っ張ってしまい、申し訳ございません」

「何を言うか。お前がいなければ護衛対象のカナタを失っていたかもしれないのだ。役に立っているのは当然で、足を引っ張っているわけがないだろう」

「……ありがとうございます」


 珍しくアルフォンスが苦笑を浮かべているのを見て、ライルグッドもあまり見せない笑みを浮かべた。


「頼りにしているぞ、俺の護衛騎士」

「……はい」

「それじゃあ、もう少しだけ休んでおけ。食事を運ぶよう、メイドに頼んでおく」

「感謝いたします、殿下」


 ベッドの横から立ち上がったライルグッドは、アルフォンスの肩を軽く叩いてから部屋を出て行った。


「……本当に、感謝いたします」


 誰もいなくなった部屋の中で、アルフォンスはもう一度ライルグッドへの感謝を口にした。


 ライルグッドがリビングに戻ると、カナタたちが談笑をしていた。


「盛り上がっているところ悪いな」

「殿下。アルフォンス様のご様子はどうでしたか?」

「先ほど、目を覚ました」

「ほ、本当ですか、殿下!」

「あー、よかったー」

「メイドに食事を頼んでおいた。三日くらい休めば、王都へ向けて出発できるだろう」


 ドサッと椅子に腰掛けたライルグッドを見て、ヴィンセントが素早く立ち上がり紅茶を入れて戻ってくる。

 そのまま紅茶を口に含むと、ライルグッドは小さく息を吐き出した。


「……やはり、心配でしたか?」

「まぁな。さすがに一週間は長かった」

「キングアントを単独討伐ですもんね」

「アルフォンス様でなければ、確実にカナタ様も危なかったでしょうしね」

「そういう事だ。それに、そろそろ出発しなければ陛下の使者が再び接触してきそうだからな。アルフォンスには悪いが、動けるようになったら出発しよう」


 陛下の使者という言葉にはカナタが口を挟んだ。


「あの、殿下。ここで時間を使ったのは、もしかしてマズかったんですか?」

「マズいかマズくないかで言えばマズいんだが、そこまで深刻に考える必要はないぞ。今回の休憩は必要な事だったからな」

「それだけ、アルフォンス様の戦力が重要と陛下も捉えているという事ですね」

「えぇー? 私はー?」

「お前の事を陛下がご存知のわけがないだろう」


 ため息をつきながらライルグッドが口にすると、リッコもそれはそうかと納得して紅茶を口にする。

 しかし、カナタとしてはたった三日でアルフォンスが動けるようになるのかが気になっていた。


「三日で時間は間に合うのですか?」

「まあ、アルなら間に合わせるだろうな」

「でも、アルフォンス様には伝えていないんでしょう?」

「あいつなら理解している。何せ、俺の信頼する一番の護衛騎士だからな」


 そう口にした後は残った紅茶を口に含むと、ライルグッドは立ち上がってカナタに声を掛けた。


「カナタ」

「はい、なんですか?」

「アルに見せに行こうと思うが、一緒に来て欲しい」

「見せにって……今ですか?」


 何をとは言わずに、今なのかと問い返す。


「こういうのは早い方がいいからな。それに、あれを見たらあいつも休んでなんていないだろう」

「……そっちの方が問題じゃないですか?」

「大丈夫だ」

「アルフォンス様の事は殿下が一番よく分かっているからかしら?」

「茶化すな、リッコ。だがまあ、その通りだな」

「……分かりました、俺も行きます」


 ライルグッドの言葉に立ち上がったカナタは、一度彼の部屋に向かってからアルフォンスのところへ向かう。

 見せるべきものはライルグッドが預かっており、それを取りに行ったのだ。

 アルフォンスがどのような反応を見せてくれるのか、作った本人としては緊張してしまうカナタなのだった。

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