第141話:処罰
その後、合図を見て駆けつけたライルグッドとヴィンセント、そして衛兵たちによって荒くれ者たちは捕らえられた。
彼らはヨーゼスたちの指示に従っただけとあって、フリックス領の法に則って裁かれる事となる。
しかし、主犯であるヨーゼス、ルキア、ローヤンは違う。
特に最後まで反抗したヨーゼスには厳しい処罰がヴィンセントから直接言い渡される事になった。
「言い訳はありますか、ヨーゼス?」
「……ない」
「私に対しても取り繕うのを止めましたか」
「貴様もカナタに丸め込まれた類の人間だろう! 殿下も殿下だ! ふざけるな……俺が何をしたと言うのだ!」
すでにまともな思考をも放棄したのか、それとも本気で自分が正しいと思い違いをしているのか。
何を言っても無駄だと思ったヴィンセントが処罰を下そうとしたのだが、そのタイミングでライルグッドが右手を上げて制止した。
「……ヨーゼス・ブレイド。お前はカナタが何を成してきたのかを知っているのか?」
「何を成してきたか、だと? そんなもの決まっている。錬金術に手を出して家を追い出され、そして貴様らを騙して今の立場を築いた詐欺師だ!」
「そうか。……カナタ、見せてやってはどうだ?」
「見せるって、錬金鍛冶をですか?」
ライルグッドの提案に驚きつつも、その瞳が本気であると語っているように見えて、カナタは魔法袋からどこにでもあるような鉄のインゴットを取り出した。
「なんだ、カナタ? この場で鍛冶でもして見せてくれるのか? ならやってみろよ、道具も何もないこの場でなあ!」
「……俺の鍛冶は、ただの鍛冶じゃない。錬金鍛冶、新たな手法で行われるものだ」
「錬金鍛冶だと? 錬金術の間違いじゃないのか?」
「まあ、見ていろよ」
強気な態度に苛立ちを覚えたヨーゼスだったが、この場で何かができるとも思っていないので見守る事にした。
ルキアやローヤンも目を虚ろにしながらも見つめており、この場に残っていたザッジも何が起きるのかと遠目から期待の眼差しを向けている。
カナタが頭の中でとある剣を思い描くと、握っていたインゴットが光輝いた。
月明かりしかなかった街道に突如として現れた光に、ヨーゼスたちは腕で目を覆っているのだが、ザッジだけは光から目を逸らさず真っすぐに見つめている。
徐々に形を変えていくインゴットだが、ザッジはその形が自分が何度も目にしてきたものである事に遠目から気づき、自然と瞳から涙が溢れていた。
「……そんな……あの剣は……これ、じゃないか……」
まさに今日、カナタを襲うために持ち出してきた自分の剣を見つめながら、嗚咽を漏らす。
ただし、その仕上がりはザッジの剣とは異なり最高のものになっている。
ザッジの剣が七等級であれば、カナタが作り出した剣は六等級。
等級違いに気づいたザッジだったが、彼よりも近くで見ていたヨーゼスたちは全く気づかす、光が収まり出来上がった剣を見つめながら下卑た笑みを浮かべた。
「……は……はは、なんだよ、それは。確かに魔法陣なしに錬金術をした実力は認めてやる。だが、それは単にザッジの剣を真似ただけの模倣品じゃないか!」
「違う!」
「……はあ? 何を言っているんだ、ザッジ!」
声をあげたのは涙を流しているザッジだった。
「その剣は、俺の剣なんかよりも素晴らしい剣だ! お前たちが貶していいようなものではない!」
「ふ、ふざけるな! あれは誰がどう見ても模倣品だろう!」
「お前たちには分からないだろうな。……だが、俺には分かる。こんな、俺にも分かるんだ」
ザッジがその場で両膝を付くと、剣がガランと音を立てて地面に落ちた。
その剣をライルグッドが横目で見ると、何か納得したかのように一つ頷く。
「……カナタの錬金鍛冶を見せてもこの態度であれば、何をしても意味はないな」
「そのようですね。仕方がありません、このまま処罰を言い渡します」
「くっ!」
「この期に及んでまーだ足掻くつもりなの?」
「ぐはっ!?」
この場から逃げ出そうとしたヨーゼスだったが、リッコがその頭を掴み地面に叩きつける。
苦悶の声を漏らしたヨーゼスに向けて、ヴィンセントから処罰が言い渡された。
「ヨーゼス・ブレイドには、あなたの両親やお兄様と同じように鉱山送りとし、永久労働を科す」
「ふ、ふざけるな!」
「次に、ルキア・ブレイドとローヤン・ブレイドには、フリックス領からの追放を言い渡す。七日間の猶予を与えるので、その間に私の領地から出て行きなさい」
「「……は、はい」」
処罰が言い渡された事で、残っていた衛兵が三人をアッシュベリーに連れて行く。
最後に残されたザッジは、下を向いたまま動こうとはしなかった。
「……ザッジさん」
「……すまなかったな、カナタ。俺も本来ならヤールスと共に裁かれなければならなかったんだ。だから、どんな処罰も覚悟している。なんなら、鉱山送りでも――」
「お前がヤールスに代わって剣を納品していた鍛冶師だな?」
覚悟を決めていたザッジの言葉を遮り声を発したのは、ライルグッドだった。
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