第135話:最後の素材とカナタの素材融合
「……これは?」
「また一際大きな魔石だな」
「さっきの要塞大亀の魔石と同等……いや、それ以上かしら?」
「それ以上ですね。こちらは存在自体が伝説になっている、
「「「……エ、古代竜の魔石!?」」」
驚きの声をあげた三人だったが、それも当然である。
まさかそのような存在に、魔石とはいえお目に掛かれるとは夢にも思わなかった。
それはカナタやリッコだけではなく、ライルグッドですらもそうなのだ。
「……お、お前、どうやってそれを手に入れたのだ?」
「内緒ですよ、殿下」
「……何?」
「いくら殿下であっても、情報源は明かせません」
「それは、本気で言っているのか? 私は、アールウェイ王国の第一王子だぞ?」
「はい。それに、殿下が王族という地位を使って無為を働かない事くらい、私には分かっておりますからね」
鋭い目つきでヴィンセントを睨みつけているライルグッドだが、睨まれている方はニコニコと笑っている。
その状態がしばらく続いていたのだが、最終的にはライルグッドが折れてしまい、大きく息を吐き出した。
「…………はぁぁぁぁ。まあ、お前ならやりかねんし、目をつむろう」
「ほら、言ったでしょう?」
頭をガシガシと掻いているライルグッドを見つめながら、ヴィンセントは柔和な笑みに変わる。
二人の関係性がより深いものだと分かる一幕に、カナタは羨ましさを感じていた。
「では、古代竜の魔石を手前の円の中に置きますね」
歩き出したヴィンセントが古代竜の魔石を置くと、それだけで魔法陣に五つの光が浮かび上がって来た。
そのものが持つ力が拮抗し合い、魔法陣の上でゆらゆらと揺れては消えていく。
この五つの素材を一つに融合するのかと考えると、カナタは額から汗が噴き出していた。
「……よし、やります」
「無理はしないでくださいね? 無理だと思えば、すぐに離れてください」
「大丈夫です。……絶対に、できますから」
自分自身に言い聞かせるようにしているが、カナタの心はすでに高揚していた。
ライルグッドや先輩錬金術師であるヴィンセントですら見た事のない、成功した事のない挑戦を、代理とはいえ取り組む事ができる。
生粋の鍛冶師と家系に生まれ、追い出されたとはいえその館で錬金術を行う。
「……親父が見ていたら、怒鳴られただろうなぁ」
錬金鍛冶が錬金術だと勘違いされて追い出されたが、そこからがカナタの新たなスタートになっている。
そこで初めての挑戦を行えるとなれば、これほど嬉しい事はない。
そして、それを成功させる事が追い出されたとはいえ両親に対する最初で最後の恩返しになるだろうと考えた。
「俺は鍛冶師だ。そして、職人だ!」
職人ならば、やると決めた事はやり遂げてみせる。やり切ってみせる。諦めていいわけがない。
ライルグッドが尻を持ってくれる。ヴィンセントが素材を提供してくれる。リッコが支えてくれる。
これだけ多くの人間に支えてもらっているのだから、失敗するわけがない。
「それでは、やります!」
歩き出したカナタは魔法陣の手前で立ち止まる。目の前にあるのは古代竜の魔石だ。
床に片膝を付くと、カナタは両手を古代竜の魔石の両脇に置いた。
「素材融合!」
突如、体の中から魔力が一気に吸い取られていく感覚を覚えた。
脱力感が酷く、そのまま倒れてしまいたくなるが、歯を食いしばって耐えると視線を魔法陣の中央へ向ける。
魔法陣に魔力が通い終わると、揺れていた五つの光が強く輝き出し、研究室全体を照らし始めた。
その光が魔法陣の中央に吸い寄せられていくと、渦を巻いて一つの光に融合していく。
素材がどうなっているのかと視線を向けると、各素材は上部から光の粒子に変換されており、それが融合を始めていた。
「……くっ!」
耐える事ができずに体が倒れてしまいそうになった直後、両脇から体が支えられる感覚を覚えた。
「頑張って、カナタ君!」
「負けるなよ、カナタ!」
「……リッコ、殿下」
三人の後ろではヴィンセントが興奮した様子で飛び跳ねていたが、誰もその様子を見ていなかった。
「……ありがとうございます!」
気合いを入れ直したカナタは強い眼差しで中央の光を見つめると、全ての魔力を注ぎこむ覚悟でイメージを強くしていく。
五つの素材が一つになるイメージ。出来上がりは分からないが、一つになるイメージを強く思い描いていく。
そして、魔力枯渇を起こすギリギリのタイミングで一つになった光が爆発的な輝きを放ち、館が大きく揺れた。
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