第134話:素材融合

 大量の魔力はその身すらも傷つけてしまう恐れがある。

 ヴィンセントは魔力をできる限り遮断する素材で作られた、肘まですっぽりと入る手袋をはめると、魔法袋から素材をゆっくりと取り出していく。

 一つ目の素材は――


「星の欠片です」


 歴史を紐解くと百年以上も前にしか確認されていない隕石の落下。

 その隕石の欠片こそ、星の欠片である。

 王族、もしくは侯爵以上の貴族しか持っていないと言われているとても貴重な素材で、ヴィンセントは爵位を賜った際にライルグッドから褒美として手に入れていた。


「……うわぁ」

「……きれいだねぇ」

「……久しぶりに見たが、魔力の量が桁違いだな」


 貴重な素材にカナタは感動し、リッコは美しさに目を離す事ができなくなり、ライルグッドは星の欠片が保有する膨大な魔力に驚いている。

 それぞれが異なる反応を示す中、ヴィンセントは星の欠片を丁寧に持ちながら魔法陣に描かれた一番奥の円に置く。

 離れてから小さく息を吐き出すと、次に二つ目の素材を取り出した。


「二つ目は、不滅の聖剣デュランダルの破片です」

「……ん? 不滅の聖剣なのに、その破片ですか?」


 矛盾があるのではないかと首を傾げながら取り出される様子を眺めていると、姿を見せた途端に神々しい何かを感じ取り、三人は言葉を失いただただデュランダルの欠片を見つめていた。

 聖剣と呼ばれるだけあって、人を惹きつける特別な力を持っているのかもしれないとカナタは考えていた。

 デュランダルの欠片は右奥の円の中に置かれてヴィンセントが戻ってくると、カナタは疑問に感じた事を口にする。


「不滅の聖剣なのに、破片があるんですか?」

「聞いた話なのですが、デュランダルはとても頑丈な聖剣なのですが、刃が欠けないというわけではなく、欠けてもすぐに修復されて元の形に戻るそうです」

「……その欠け落ちた部分は、その場に残るんですね」

「はい。ですが、そう簡単に欠けるものでは当然ありません。それこそ魔王に近い実力を持つ魔獣と戦わなければ欠ける事はないでしょう」


 現存するどの聖剣よりも頑丈だからこそ不滅。

 そして、欠けたとしても自動で修復して元に戻るからこその不滅。

 二つの意味で不滅を体現している聖剣デュランダルは、カナタとしても気になるものになっていた。


「では、三つ目を取り出します」


 デュランダルへの感動を覚えていたのも束の間、今度は取り出された素材を見て背筋が凍るほどの威圧感が放たれた。

 冷や汗が一気に噴き出し、顎を伝って地面に滴っている。


「……何よ、これ?」

「……魔剣ダーインスレイヴの破片、だったか?」

「覚えていらっしゃったのですね、殿下」

「……聖剣の次は、魔剣ですか」


 神々しさとは真逆の禍々しさに呼吸が乱れそうになるが、それでも素材として自分が取り扱うダーインスレイヴの破片から目を離す事なく、左奥の円に置かれるまで見つめ続ける。

 手に持つヴィンセントも額から汗を流しており、カナタよりも感じている威圧感は相当なもののはずだ。

 円に置いて一定の距離を取った時のヴィンセントは、大きく息を吐き出していた。


「ふぅ。……では、四つ目ですね」

「あの、大丈夫ですか、ヴィンセント様?」

「もちろんです。何せ、これらが一つになるかもしれないのです、疲れなど吹き飛んでしまいますよ!」

「……あ、そうでしたか」


 カナタは勘違いしていた。ヴィンセントを動かしていたのは単純な体力ではなく、研究バカと言われた錬金術への探求心からなるものだった。

 それならば疲労を感じていても問題はないだろうと、カナタも鍛冶バカなので十分に理解して一歩下がる。

 そのまま取り出された四つ目の素材は――魔獣素材だった。


「これは俺も見た事がないな」

「えぇ。こちらで領主となってから手に入った素材でして、要塞大亀フォートレスヘヴィタートルの魔石です」


 暗さの強い紺色の魔石は、30センチに迫る大きさの巨大な魔石である。

 デュランダルやダーインスレイヴのように見ただけで何かを感じるという事はないものの、何故か目を離せなくなるような感覚に陥ってしまう。

 カナタがそうなっている事に気づいたのか、ヴィンセントは背中で要塞大亀の魔石を隠すと、すぐに右の手前に描かれた円の中に置いた。


「……あ、あれ?」

「要塞大亀はSランク魔獣です。上位の魔獣の魔石というのは、魅了に似た効果を持っていると言われています」

「……もしかして、魅了されていましたか?」


 カナタの言葉にヴィンセントは苦笑しながら頷いた。

 魔獣の中にはわざと弱点である魔石を露出して討伐しに来た者を無意識のうちに引き寄せ、そのまま喰らう事もある。

 説明を受けたカナタはゾッとしたものを感じ、魔石の取り扱いには最善の注意を払う必要があると改めて認識させられた。


「それでは、最後の一つを取り出します」


 ヴィンセントの言葉を受けて、カナタは改めて居住まいを正した。

 何故なら、最後に残された五つ目の素材が入っている魔法袋からは、先の四つの素材以上に異質な何かを感じ取っていたからだ。

 カナタがゴクリと唾を飲み込む一方で、素材を取り出す側もヴィンセントが呼吸を整えている姿も見えている。

 そして、ヴィンセントは最後の魔法袋に手を入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る