第133話:ヴィンセントのお願い

 この日は日中にヴィンセントのお願いでもある、特別な融合に協力する事になったカナタ。

 リッコとライルグッドも同席しており、カナタはこのメンバーでの行動に慣れ始めていた。


「平民が第一王子と領主と一緒にいるって、普通はあり得ないよな」

「それを言ったら貴族の子女もそうじゃない?」

「……俺、どういう立場なんだろう?」

「力がある者は周りに権力者が集まるものだ」

「それって、殿下くらいじゃないの?」

「カナタをワーグスタッド領に誘ったのはリッコだと聞いたが?」

「あ、あれは、カナタ君を助けるためよ!」

「規模は違えど、立場は俺と変わらんだろうが」

「ぐ、ぐぬぬっ!」


 ヴィンセントが素材を研究室に運び込む間、三人は備え付けの椅子に腰掛けて待っている状況だ。

 素材自体はヴィンセントの執務室にある。カナタも手伝おうかと声を掛けたのだが、扱いが難しい素材という事で断られてしまった。


(……俺にできるのか? いや、錬金鍛冶を信じよう)


 二人が騒がしくしている中、カナタは不安と期待が半々という感情でヴィンセントを待っていた。

 しばらくして、ヴィンセントが五つの魔法袋を載せたワゴンを押して現れた。


「お待たせしました」

「あの、これは魔法袋ですよね?」

「はい。実は、素材はこの中に入っているのです」

「魔法袋に入っているのに、扱いが難しいんですか?」


 カナタは当初、素材の保管を魔法袋でしていると思い手伝おうかと声を掛けていた。

 しかし、手伝いを断られた事でそうではないと思い込んでいたが、実際は当初の予想と同じで魔法袋での保管である。

 保存特化の魔法袋であれば劣化や破損なども起きないので、どうして扱いが難しくなるのかが分からなかった。


「こちらの五つの魔法袋には、それぞれ一つの素材しか入っておりません。それらの素材を保存する専用の魔法袋なのです」

「……そこまでする必要がある素材なんですか?」

「各素材が膨大な魔力を保有していて、同じ魔法袋に入れてしまうと素材同士が反発を起こして、素材が壊れてしまうのです」


 カナタが作った容量無限の最高級魔法袋であれば一緒に保存する事も可能だが、ヴィンセントが持つ魔法袋ではそれができなかった。

 さらに、魔法袋に入れた状態でも外に魔力が漏れてしまうので、一定の距離を空けていなければそれでも袋の中で壊れてしまう。


「……そんな素材同士をどうやって融合させるんですか?」

「とても大規模な魔法陣を描き、一定の距離を離して各素材を陣の上に置き、そこから錬金術を発動させて融合を行います」


 説明しながらヴィンセントは研究室の奥、何も家財が置かれていな場所を指差す。

 よく見ると、床には白いインクで大きな魔法陣が描かれており、素材を置く五ヶ所の円も確認する事ができた。

 融合は素材が持つ魔力を魔法陣の中央へ集めて魔力融合を行う事が重要。

 魔力融合が進んで行くと魔力に素材が引っ張られて中央へ引きずられていき、完全に魔力融合が完了すると最後に素材同士が結びついて素材の融合が完了する。

 魔法陣が大きい分、大量の魔力が必要となり、五つの素材を融合させる技術も大事になってくる。

 説明を全て聞いたカナタはゴクリと唾を飲み込み、床に描かれた魔法陣をジッと見つめていた。


「……お願いできますか?」

「……やります」


 カナタは自分の心境の変化に少しだけ驚いていた。

 昔の自分であれば話が出た時点で委縮して断っていただろう。どれだけ説得されても自信がない、素材を無駄にしたくないなど、様々な言い訳を口にしていたはずだ。

 しかし、錬金鍛冶を使って自分の道を切り開き、多くの問題を解決して、たくさんの人と関わって来た事が大きな自信につながっている。

 そして、最も大きな変化がリッコとの出会いだろう。

 周りに流されて生きてきた人生が大きく変わり、リッコと共に多くの事を経験してきた。

 できないかもしれないが、それでも自分にしか素材融合を成功させる可能性がないのであれば、今のかなたに選択肢は一つしかない。


「頑張ってね、カナタ君!」

「陛下への報告がまた増えそうだな」


 リッコとライルグッドも失敗するとは爪の先ほども思っておらず、その気持ちがカナタには嬉しかった。


「それでは、素材を出して置いていきます。魔力が濃いので気をつけてくださいね」

「わ、分かりました」


 顔を魔法陣から魔法鞄へ移したカナタは、大きく深呼吸をしてから気持ちを落ち着けると、取り出される素材に意識を集中させた。

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